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「瓦礫のジェネレーション」
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「瓦礫のジェネレーション」-39

---「最初から俺が輿石寛一の息子だと知っていて近付いたのか?」
---「最初は、そうだったわ。でも、私もあなたのことを本当に愛してた……それは嘘じゃない」
---「じゃあ、何故、何故俺が帰って来るまで待っていてくれなかったんだ?」
---「陸、あなたになんて責められてもなじられても仕方ないと思ってる。でも私、今は岳人さんのことを愛してるのよ」
---「兄貴は知らないんだろ、俺とのことは」
---「ええ。ただ『向こうで知り合いになった』としか言っていないから。でも、話したければ話してもいいわ。覚悟はできてるから」

結局陸は、美奈子とのことは誰にも話さなかったが、それきりボストンに戻ることもなく輿石の家を出たのだった。ボストンに戻れば、美奈子のことを思い出す。家にいれば、どうしても兄と美奈子の姿を見ることになってしまう。まだ若かった陸はそのどちらにも耐えることができなかったのだ。自棄を起こし、街のゴロツキのような生活を送っていた。
そんな中で美咲の不幸な出来事に関わって以来、陸は変わった。美咲を守り、支えるために、陸は少しずつ真っ当な生活を取り戻していった。相変わらず街の不良であることは変わりなかったし、今や県内全てのグループを実質的にまとめているボス的存在ですらあるが、留学経験を活かした英語を使ってのビジネスも軌道に乗り、一応は恥ずかしくない社会人としての側面も持っていた。美咲にとって陸は頼もしい恋人であったが、陸にとって美咲は救いだったのだ。美咲に対する気持ちには最初から一点の迷いもない。
それでも美奈子の名前は、陸にとっては忘れられない古傷なのだ。


「長谷部葉子さんってこちらにお勤めですよね?」
葉子が勤めるガソリンスタンドに、見るからに仕立のいいスーツを着た30前後の背の高い男が現れた。
「長谷部は私ですけど……」
葉子がとまどいがちに顔を出すと、その男は名刺を差し出した。
「初めまして。塩飽コーポレーションの市丸と申します。お仕事中失礼します。長谷部さん、塩飽美咲さんを御存じですよね?」
(あ、なんだ美咲さんの親父さんとこの人か……なんだろ私なんかに用って)
「はい、時々一緒に遊んだりしてますが……美咲さんがどうかしたんですか?」
「いえ、たいしたことではないのですが、社長に頼まれまして、美咲さんのことでちょっとお尋ねしたいことがあるんですけれど」
「今まだ仕事中なんで……6時には終わるんですけど、それからでいいですか?」
「はい、では6時にお迎えにあがります。なにかおいしいものでもごちそうしますよ」
(ラッキー!晩飯浮いちゃったわ。それにちょっといい男だし……最近健志も冷たいし、陸さんは美咲さんにかかりっきりで構ってくれないし、丁度いいかも)
立ち去る市丸の後ろ姿に葉子はニヤリとした。

一方の市丸も内心でニヤリとしていた。とりあえず美咲の体に自分の味を覚え込ませることはできただろう。あの美咲の様子からみて特定の男がいるようには思えない。いるとしてもたいした男ではあるまい、そう考えていた。美咲を手中に納めるとともに葉子をたらしこんでこの県の不良グループを仕切っている幹部連中をうまく陥れたい、市丸の狙いはそこにあった。

市丸は約束どおり6時きっかりに迎えに来た。
「車ですか……私、バイク通勤なんだけど、どうしようかな……」
「大丈夫ですよ。ご自宅までお送りしますから、バイク置いて行かれればよろしいでしょう」
「じゃあお言葉に甘えます」
葉子は何の警戒心も抱かずに市丸の車に乗り込んだ。


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