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天使のすむ場所〜小さな恋が、今〜
【理想の恋愛 恋愛小説】

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天使のすむ場所〜最後のドライブ〜-6

「美香、俺人生後悔してない。今までの人生を精一杯生きてきたから。でも、お前と出会えていなかったら、こんなに充実した人生にはならなかったって思ってる。美香と出会えて、こうして一緒に10年過ごすことができて、麻美と恵美が生まれて…俺それだけで十分幸せだった。これ以上の幸せはないってくらい幸せだったんだ。だから、もう悔やむことなんかないよ。笑って天国にいける。」

「な…お…。」

「でも!」



直人が叫んだ。私の言葉を遮って、私の頭を無我夢中でかき抱いて。



「でも…美香にはこれから大変な思いしか残してやれない。麻美と恵美を一人で育てさせることになる…。美香を、独りにさせるのが…一番つらい。病気なんか、くそ食らえだ。痛みも、吐き気も、だるさもお前がいたから耐えられた。なのに、俺はお前を悲しませることしかできないんだよ…。なぁ美香、こんな俺と一緒になって後悔してないか?俺と結婚して幸せだったか?美香…お前より先に逝くことだけが、どんな痛みよりもつらいんだ!!」





驚いた。直人が…泣いていた。





付き合ってから今まで、自分の両親が亡くなった時でさえ泣かなかった直人が、泣いていた。痛みとだるさと吐き気で、毎日毎日のた打ち回っていたのに涙ひとつ見せなかった…そんな直人が…泣いて…る。



私は、震える両手で直人の背中を抱きしめた。直人が、こんなに小さく見えたのは初めてだった。直人が、あんなに強い直人が、自分の命でさえも自分で決めようとしている直人が…私を置いて逝くことが、つらいって…。



私は、言わなきゃいけない。泣いている場合じゃない。直人は、答えを欲しがってる。私が、強くならなきゃ。じゃないと、直人は最後の決断ができないんだ。私は直人が私にしたように直人の顔を両手で包んだ。そして、私の額と直人の額を合わせて、泣きじゃくる直人に伝えた。



「直人…私、直人と出会ってから14年。ずっと幸せだったよ?癌になっても、直人と一緒に頑張ってこれたことが嬉しかった。私の前でだけ、怒鳴ったり、苦しがったりしてくれたでしょ?辛い時、傍にいさせてくれたでしょ?私、すごく誇らしかった。貴方の隣にいれるだけで、幸せでした。」



直人が、目を真っ赤にしながら私を見た。瞳がぶつかる、直人の瞳に私が映った。



「今まで、傍にいさせてくれたありがとう。心配しないで。麻美と恵美は、私が直人のぶんまで一生懸命育てる。だから、直人は…天国にいったら…。」



この先は、涙が溢れて続けられなかった。そんな私の唇に、直人のそれが重なる。久しぶりの長い、長いキスをした。出会った頃、毎日のようにしていたように。息があがるくらい、もうこのまま息ができなくなるくらいキスをして、キスをしたまま直人が天国にいけたらいいのに…そんなことを考えた。どれくらいしていたのだろう、お互いの唇が真っ赤になっても、それでも繰り返し口付けた。一生分の想いを注ぐかのように。


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