操れるかも! 操られるかも!?-3
「私は最愛の我が妻、お前の母陽子に似て生まれたお前を
見てかけがえのない宝物を手に入れたと感じたよ」
あまりに突然な父の愛情の告白に俺は少し恥ずかしさを
覚えた。
「……そ、そうか？」
「そうだ。お前がとにかく可愛くて可愛くてしようがなか
った……」
「……」
「あまりにも可愛くてつい……」
「……つ、つい？」
「お前の封印の『鍵』を私との『くちづけ』にしてしまっ
たのだよ」
「……」
「……」
俺の体が急速に冷えていく。
「……おい」
「なんだ」
「……いちおう聞いておくが……このかつらは何のためだ
ったんだ？」
「……私とて赤ん坊の頃と違い、今のお前と『くちづけ』
するのは結構度胸がいるのだよ」
「……」
「お前の顔立ちは母親似だから、陽子と同じ髪型ならなん
とかなるかと思ってな……」
「……」
「……お前の母の黒く輝いていた長い髪はこの世のものと
は思えぬほど美しくてな……」
「……じゃ、そういうことで」
「どこへ行く」
部屋を出て行こうとする俺の肩を親父が掴む。
「てめぇとキスなんかしたくねぇ！」
「力が欲しくないのか？」
「そんな気色悪いまねしなきゃいけねえなら力なんていら
ねえよ！ 今まで無くても何も困らなかったんだしよ！」
「……本当にそう思うか？」
「……」
「この力があれば……あんなビデオなんて必要ないぞ」
親父はとっくに再生が終わり、最初まで巻き戻っている
アダルトビデオが入ったビデオデッキを指差す。
「……と、とにかく俺はそんな力……」
そう言いつつ、とにかくこの場から離れようとした俺に
向かって親父が再び大声で叫ぶ。
「動くな！」
その一言で俺の手足は全く動かなくなってしまった。そ
の恐怖感に俺の体中から大量の汗が噴き出す。
「や、やめろ！ 近寄るんじゃねえ！」
口は動かすことのできる俺の怒鳴り声を無視して、親父
が俺の前に立った。俺の恐怖感は最高潮に達した。
「……お前の力は目覚めさせておかねばならない。いつか
生まれるであろうお前の子供達のためにも。斉木家の人間
は確実に力を持って生まれるのだ。人間がいつ死ぬかわか
らぬ存在である以上、力の封印ができる者をできるだけ確
保しておかねば斉木家の子孫に未来はない」
「お、俺に子供が出来なきゃそんな心配いらねえぞっ！
い、今だって俺、彼女いねえしっ！」
親父の唇が眼前に迫ってきて、俺は恐怖のあまりかなり
情けないことを口にしてしまう。
「……そういえば……」
「そ、そういえば？」
「昨日、会社の帰りに美奈子ちゃんとばったり会ったぞ」
「み、美奈子がどうした？」
『高杉美奈子』は俺が物心ついた頃には既に隣人だった
姉妹の妹の方でいわゆる幼なじみということになる。
特に好きとか嫌いとかいう付き合いではないのだが、も
ともと甘えたがりの性格の上に、昔馴染みということもあ
り俺に対してはかなり慣れ慣れしいやつだ。
少し頭が弱くやや童顔ではあるものの、充分に整った顔
立ちをしていたり意外とスタイルも良かったりでうちの学
校の男子の間では結構人気があるらしい。
「……美奈子ちゃんと久しぶりに話したが、えらく可愛く
育ったもんだと思ったよ。お前はそう思わんか？」
「そ、それがなんだって言うんだよ」
「……力さえ手に入れれば、美奈子ちゃんにあ〜んなこと
やこ〜んなことができるんだぞ」
その言葉を聞いた瞬間、情けなくも俺の心臓はドクンと
大きく鳴った。美奈子の裸のイメージが俺の頭に浮かんで
くる。
「もちろん他にも好きなようにしてみたい女の子はたくさ
んいるんだろ……その娘たちだって……」
親父はさらにダメ押しとばかりに続ける。
「視線が合った瞬間、お前が力を放ちさえすればそれだけ
で……」
「……」
俺の喉がごくりと鳴った。
「お前の言うことを何でも聞く牝奴隷と化すんだぞ」
「……」
俺の頭が妄想で埋め尽くされる。
俺の視線が宙を舞い始めた時、俺の顎を親父が掴んで正
面を向けさせる。
俺はハッと現実に帰るが既に遅かった……
「さあ、受け取れ！ 斉木の力を！ 父の愛を！」
「！！」
ぶっちゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
・・・うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・
その時隣家では
「……圭ちゃん家、今日も賑やかだなぁ」
と、早めの就寝に入ろうとしていた美奈子が寝ぼけ眼でつ
ぶやいた。
第１話 おわり