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「花、堕ちる」
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「花、堕ちる―後編―」-2

「千世が暴れている。…お前、行って宥めてきておくれ」

…まったく、寝られやしないよ…。

そう、ごくごく小さく呟いた弥兵衛は、隈をこさえ、疲労の色が濃かった。

藤吉が振り返って目に映った、弥兵衛の背中は存外に小さくみえた。



「お嬢さん。入りますよ」

障子は開いていたが、藤吉は声をかけて入った。


行灯はこうこうと明かりを湛えている。

千世は、部屋の中央でぼんやりと座っていた。

着物は乱れ、髷も崩れている。


随分派手に暴れたようだ。

その証拠に、部屋の中はあちこちに物が散乱し、なかには無惨に割れているものもある。

藤吉がそっと近付くと、千世の手の甲に、痛々しく赤く焼けた痕を見つけた。

傍らの火鉢をみやると、灰が溢れている。

暴れた際に火鉢に触れてしまったのだろう。

藤吉は水桶を用意して、まずは千世の火傷の手当に取り掛かった。


手拭いを水に浸し、それを千世の手に宛がう。

水の冷たさからか、千世が微かに身動ぎした。

「冷たいでしょうが、少しの間、辛抱してくださいよ」

千世がまた、身を捩って逃れようとするので、藤吉は幼子のように千世をしっかり抱きかかえ、身動きが出来ぬようにして手当を続ける。


アロエを塗って清潔な布で縛り、一先ず処置を終えると、藤吉は部屋を手早く片付け、千世の床を延べた。

癇癪は収まったようだが、千世はなかなか寝付いてくれなかった。


藤吉は、おもむろに千世を背負うと、その上に袢纏を羽織る。


そっと庭先に下り、裏木戸から店の外に出た。


千世の重みと伝わってくる体温が、藤吉には心地良い。


以前も似たような夜があって、今のように千世をおぶって外に出ると、千世の癇癪がぴたりと治まったのだ。


千世が夜起こす癇癪は、今日のような夜の散歩を所望しているのではないかと、藤吉は感じていた。


今も千世は、藤吉に背負われて大人しく身体を預けている。


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