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「花、堕ちる」
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「花、堕ちる―後編―」-1

目覚めた千世は、変わった。

美しく、優しいお嬢さんは鳴りを潜め、気難しく、度々癇癪を起こすようになった。


それでも女中たちは、長年仕えている手前、辛抱して千世の面倒をみていた。

しかし、その辺のものを手当たり次第に投げ付けたり、夜中に突然起き出して喚いたりするものだから、その激しさに手を焼いて、とうとう皆、根を上げてしまった。


代わりにと、ひっそりとその役目を買って出たのは藤吉だった。

少なからず責任を感じてのことだろう。

手代の仕事は忙しく、両立させるのは至難の技だったが、まめまめしく千世の世話を焼いた。

千世も、藤吉が相手だと大人しくしていることが多かった。

そうして、緩やかに時間は過ぎていった。




二年の月日が流れた。



千世と結納を交わすはずだった旗本の慶一郎は、千世が光を失っても諦めなかった好人物だったが、やはり周囲の声を抑えきれず、武家の息女と結婚した。

先頃、息子が生まれたという。



反物を判別できなくなった千世は、大半を自室で、己を支配する闇とともに過ごすようになった。


十九になった千世は光を失って尚、美しかった。


それは、落日の美しさに似ていた。

咲き誇っていた大輪の花が、はらはらと散っていく。

あるいはそのような、儚く切ない美しさをも孕んでいた。


しかし、今では誰も千世の美しさを褒めそやす者はいない。

もはや、その美しさが、良き方向へ転じることなどないと、皆が思っていたからだ。




虫の音も、そろそろ雪降る音に変わろうかという、晩秋の夜。


使用人たちで雑魚寝している、部屋の障子が微かに開いて、押し殺した声が聞こえた。

「…藤。藤はいるかい」

藤吉はむくりと起き上がると、手早く身支度を整えて、冷え込んできた廊下へ出た。


呼び出したのは主人の弥兵衛で、苦虫を噛み潰したような顔が、月明かりに照らされていた。


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