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走馬灯
【その他 官能小説】

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走馬灯-19

「…。」


「ねぇ、教えて。とても大切なことなの。」

助けて…助けて

これはなじられているのか…しかし、どこか奇妙な感じがする物言いだ。

「自分でもなんで電話をかけたのか分からなくて。」

分からない。

分からない?

「…。」

「頭が割れそうに痛い。」

受話器越しに涙声になっていく俺は明らかに何かを忘れていた。田宮は静かに聞いていた。どこか、もの悲しい空気に包まれた2人。

「かおり。今からそこに行きたい。どこにいるんだ?」

「ダメ。できないの。」

きっとこんな格好では…

「なんでだよ。」

答えられない。

「私のこと…好き?」

「好きだ。愛してる。だから…。」

なんだか泣けてくる。

「うん。私にとっても清二…はきっと大切な人なんだと思う。」

「…清二にとっても私は大切な人なんだね。」



「…。」


「よく分かったよ。」

痛いくらい。

この涙が教えてくれる。

「…。」

「好きだよ。清二。それだけは絶対に忘れないで。ね?」

それだけしか言えなかった。無惨にもシーンが薄れ始めた。涙のくもったカーテンとフェードアウトがなかなかマッチしない。受話器を静かに置いた俺は、あられもない姿でこれから小林の眠る寝室にでも向かうのか。廊下を歩きながら、閉じていく中、少しずつ朧気に思い出してきた。過去を変えるという目的のために偶発的に、かおりをはじめとしてに周囲の人間に憑依し、田宮の走馬灯を見ていること。

あの時、記憶をなくしていたかおりが何故俺に電話したのか、何故俺に電話をかけられたのかは分からない。事実を知り、無力感にうちひしがれる。前回のかおりは思い出せずにいた。これは幸か、不幸か。その後に元カレのとなりの部屋で、自分を拉致した旦那に抱かれ、歓喜の声を上げる。たまらなく哀れだ。

俺はかおりであると同時に田宮だ。かおりの記憶は俺が呼び戻し、きっとこの瞬間かおりが言いたくても言えなかったことを伝えた。ささやかなリベンジが始まる。人でなしとの結婚生活は始めさせたくなかったが仕方ない。明日はまやかしの寿退社だ。しかし、これからかおりに憑依しようと、小林に憑依しようと、クズ野郎をひねり潰すことにはかわりない。記憶が戻ったからこその決意。これも目的の一つだ。

きっと田宮は変わった。きっと過去は変わった。残りのシーンは恐らく…。思い出した今ならば、何をすべきか分かる。新たな場所に飛ばされ、いつかこのシーンを振り返った時に、小林に対する殺意は確実に芽生えると信じている。続いていたのなら直ぐ様…殺してやりたかったが…自分の体はかおりだから…心残り…だ。


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