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走馬灯
【その他 官能小説】

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走馬灯-14

街はイルミネーション。もしかしたら夜は眠るためにあるのではないのかもしれない。ファンクがよく似合う風景が横滑りしていく。フィットのサイドシートにちょこんと座ったかおりは、外を見ては何かを考えているようだった。「どうした?まだヘコんでるのか?」単刀直入に聞いた。「別に。もういい。」怒ったように言われても困る。なんとなくファンクの音量を下げてみた。ここからは低刺激でいこう。

「ホントはね、ホントは、慰めたかったの。田宮くんのこと。自分のこともね。絶対に勝てるって思ってたのが、絶対に勝てたに変わったんだもん。私なんかよりメイン張った田宮くんの方がもっと悔しいよね。辛いよね。なのに、なんか気ィ遣わせちゃったね。私ってバカだ。」

「泣くつもりなんてなかったの。田宮くんはきっと泣かないだろうから、2人で愚痴言ってスッキリできたらなぁって思ってただけなの。でもさ、泣いちゃった。ごめんね。」

確かに泣きたいとは思わない。色々考えたが、結局は、結果が出せなかった努力はやらなかったことと同等、全ては自分が悪いはずなんだと言いたかった、がやめておいた。

「次こそは勝ちに行けばいい。また頑張ればいいんだよ。」誰にでも言えるセリフを言ってみた。逆効果なのか更に泣き出す。しまった。よく分からない。黙っていれば良かった。ファンクを完全に止め、フィットを路側帯にゆっくり停める。ハザードをつけようと手を伸ばした瞬間、パッと抑えられた。かおりの細くて小さなかわいらしい右手だった。

「ねぇ。行きたいとこ、ある。」震える肩。震える指先。上目遣いでこっちを見ている。据え膳喰わねば…などと言うのは不届き者だ。これはそういうことじゃない。かおりの右手を握り返し、自分の膝の上においてあげた。別段、余裕ぶるわけではなかった。俺にだって性欲の一つや二つぐらい…。

次の瞬間、左肩にしがみつかれた。沈まないように、沈み込まないように必死なのだ。これは恋愛などといった特別な感情ではない、単なる寂しさだ、この時はまだ、そう思い込もうとしていた気がする。信じれば裏切られる人生はもうこりごりなのに。逆に寂しさが募って弱くなってしまうのに。

「一緒にいて。お願いだから…。」

車は走り出し、やがてホテルに着いた。フロントを順調に越え、2人は無言のままエレベーターに乗る。言葉を交わすこと、見つめ合うことは一度としてなかったが、手はお互いの絆を信じるように、未来を確かめ合うように、強く固く握られていた。





正直な話、行きずりのセックスは嫌いではなかった。名前も生い立ちも、詳細は特に必要ないからだ。もう2度と会うことはないからだ。俺の中で僻地の温泉ぐらいのウェートを占めている。それに引き換え愛のあるセックスは嫌いだ。面倒なことが多い。愛は苦痛を生み、苦痛は別れを選ばせる。

俺は人のことをろくすっぽ好きになったことはない。告白はただ肌を合わせるための口上に過ぎない。一瞬限りの信頼作り、なんだかナンパ先輩の考えも一理ある気がする。

しかし、かおりは違う。毎日顔を会わせなければならない存在であったし、何より信頼できた。今は愛しくて仕様がないかおりだが、この時は現状に満足し、越えようという気持ちに歯止めがかかった。


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