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Dear.
【悲恋 恋愛小説】

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Dear.The last smile-2

「志穂っ!聞こえるか?!志穂、志穂!!」
志穂の名を何度も呼ぶ。
反応は全くない。
「あの…志穂は…大丈夫なんですか…?」
心配になった俺は、百瀬看護師に問う。
すると、
「えぇ、麻酔が切れていないだけなので大丈夫ですよ」
と一言言って、スタスタとその場を去って行ってしまった。
俺は、志穂の体を揺すりながら何度も何度も声を掛ける。志穂の体は俺にされるがまま、ぐらぐらとベッドの上で小刻みに左右に揺れた。
「志穂、志穂!大丈夫か、志穂!!」
何分ほど声を掛け続けただろうか。
また、志穂の目が少し開いた。
「志穂!!聞こえるか?志穂!」
「……子供…は…」
志穂の今にも消え入りそうな声が微かに聞こえた。
「子供、産まれたぞ、ちゃんと!聞こえてるか?」
「…」
志穂が目を開いていた時間は、本当に数秒程。すぐにまた意識はなくなっていた。
「失礼します」
何の前触れもなく、百瀬看護師が再度処置室へやってきた。
百瀬看護師は、先程と同じ位置に立ち再び、
「木ノ下さん、木ノ下さーん」
と、志穂の耳元で大きな声で名前を呼んだ。
反応は、ない。
処置室の隅にあった血圧計を引き寄せた百瀬看護師は、志穂の血圧を測り始めた。
その様子を俺がじっと見つめていれば、
「今から処置の方行いますので、少し外で待っていていただけますか」
と、俺は外に出されてしまった。
不安だけが俺の心の中に募る。
処置室の前でうろうろと行ったり来たりを繰り返しながら、また神に祈る。
あなたが本当にいるなら、神様。

俺が処置室の外に出されてから約1時間が経過した。
百瀬看護師から声を掛けられ、1時間ぶりに志穂に会う。
もう、目は覚ましただろうか。志穂の笑顔を見られるだろうか。
処置室のドアを開ければ、そこに待っていたのは1時間前と何ら変わらない志穂の姿。
昏々と眠り続け、目覚めるそぶりすら見受けられない。
「あ…あの…」
「麻酔が切れていないだけですから、心配いりませんよ」
1時間前と同じ志穂に、1時間前と同じ言葉、そして1時間前と同じように百瀬看護師は処置室を去って行く。
と、百瀬看護師と入れ替わるようにして、1人の白衣姿の中年男性が処置室に現れた。
名札から見て、どうやら副院長らしい。
ベッドサイドまでやってきた副院長は、何やら志穂の事をじっと見つめるので、俺は副院長をじっと見つめる。
視線を志穂から俺に移して、副院長は、
「麻酔が切れていないだけですよ」
とにこりと笑い。何をするでもなく処置室を後にした。
さっきから口を開けば麻酔麻酔と、同じ事を繰り返されるばかり。
麻酔とは、こんなにも目覚めないものなのだろうか。
麻酔の量を間違えて、多めに投与してしまった副作用なのだろうか。
様々な考察が頭の中で行き交っては、不安だけを残してサラサラと消えていく。
「志穂、目を覚ましてくれ…志穂…」
まるで人形のような最愛の人。
人間に戻ってほしくて、俺は声を掛け続ける。
志穂。志穂。


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