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Dear.
【悲恋 恋愛小説】

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Dear.First meeting-5

「…そんなに笑わなくても…」
ボソッと俺が呟けば、息を切らした彼女がごめん、ごめんと何度も謝る。
ひとしきり笑って、目尻に溜まった涙を拭ってから、彼女は俺と改めて向き直った。
「ホントごめんね、こんな笑っちゃって…。私の事は志穂でいいよ、全然」
彼女の声は見た目と少しのギャップがあった。
姿は可愛い系なのにも関わらず、声は低めのハスキーボイスだ。アニメ声みたいなんだろうなと想像していた俺には、すごく新鮮に聞こえる。
「いや、俺こそ、いきなりフルネームはないよな…うん。俺の事も賢悟でいいから。まぁ、女の子は大体賢くんとか賢ちゃんとか略呼び多いから好きに呼んで」
「うん…じゃあ…」
賢悟、と控えめに俺を呼ぶ。また彼女の顔が赤くなった。
遠くの方へ出掛けていた緊張が帰ってくる。
鼓動も走り出してきた。
先程まで普通に話していたのに、ちょっとしたことで恥ずかしさからか沈黙がうまれた。
テーブルの上に置かれていた両手が、無意識にそわそわと動き始める。
沈黙の相手が自分の苦手な人だったり、嫌いな人だったりすると、死ぬほど居心地の悪い空気が流れるものだが、今この場にそんな空気は流れていない。
その代わり、何だかくすぐったいような空気がここには溢れている。
「あ」
「え?」
そうだ、と思い立ったら声が先に口から出ていた。
「その…番号、交換しない?」
「あっ、うん!」
右手でズボンのポケットに入っていた携帯電話を取り出してみれば、彼女もショルダーバッグの中から黒の携帯電話を取り出した。
女の子にしては珍しくシンプルなタイプの携帯で、ストラップの類も付いておらず買った時のままの姿だ。
「赤外線でいい?俺の送るから受信して」
「うん…わかった…。…はい」
カタリと携帯電話を開き、先端部分が俺へと向けられる。
そこへ向けて俺の携帯の赤外線部をあてがう。
何だか『初めての共同作業』でもしているかのような気分だ。嬉し恥ずかしなんて言葉が今の状況によく合っている。
「…きたよ。ありがとう。私のはメールで送るからちょっと待っててね」
携帯を両手に持ち、彼女は1人作業を始めた。
その姿を、何をするでもなくじっと見つめる。
時折、何かを思案するように上を見上げる仕草が、何となく面白い。
♪〜
暫らくすると俺の携帯が鳴った。
知らないアドレスからの新着メールが1件。
題名には『西山志穂です。』と書いてある。
メールを開けば、電話番号と『これからよろしくね(^-^)』という文字。
ここに何を書くか迷ったんだろうなと考えると、自然と口元が緩んだ。
「こちらこそ、よろしく」
笑えば、彼女もまたにこりと優しく微笑んだ。


これが、俺と彼女、西山志穂との出会いだった。


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