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Dear.
【悲恋 恋愛小説】

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Dear.First meeting-4

「電話か?…はい、あ、晃司?」
どうやら晃司から電話がきたらしい。
「え?…うん、まぁ…、…え?…うん、…うん」
最初は軽快に話していたのに、途中から何やら雲行きが怪しい。
「…うん、うん、わかった。すぐ行く。じゃね。…ごめん、なんか晃司ちょっとめんどくさい事になってるみたいで、あたしちょっと行かなきゃ」
「え?大丈夫なのか?俺も行こうか?」
「ううん、平気平気。2人はゆっくりしてて。じゃあ、また連絡するから」
そう言って軽く手を振ると、小百合は駆け足で店を後にした。
晃司の奴、何をしでかしたのだろう。大丈夫なんだろうかと思いながら、ふと前を見れば、彼女もまた去って行った小百合の後ろ姿を心配そうに見つめていた。
あれ、ちょっと待てよ。これ、2人っきりじゃん?
晃司の事で思考回路が埋まっていたせいで、大事な事が思考できていなかった。
うん、どうしようか自分。
ものすごく緊張してきた。高校受験とか大学受験もそりゃ緊張したけど、この緊張感の前じゃ話にならない。
バクバクと鳴る心臓。鳴りすぎたら彼女に音が聞こえるんじゃないかと思って、もういっそ鷲掴みにしたいくらいだ。
…とりあえず何を話そう。今までの話は殆んど全て小百合が話していたと言っても過言ではない。
晃司の事とか大学の事とかテレビの事とか。よくもまぁそんなに話題がポンポンと出てくるものだと、少し感心してしまった。
彼女との共通話題といったら何だろうか。
大学の話は小百合が目一杯喋っていったし、晃司の話は別に俺がしなくてもいいだろう。テレビの話といっても、彼女の好きな番組やドラマ、何もわからない。一方的に話しても彼女は楽しくないだろうし。
…そうなると、話題は……地球温暖化問題?
日本人なら誰でも知っているであろう話題といったら、これしか思い浮かばない。自分のボキャブラリーの無さに心底悲しくなった。
何が楽しくて、初対面の異性といきなり地球の今後について語らなくてはならないんだ。自分、しっかりしろ。
…しかし、しっかりしろと言っても背に腹は変えられない。
こんな話題を女の子にふるなんて、一世一代の大博打ではあるが、話題は話題だ。何とかなるだろう。
と、腹を括り、「最近、地球やばいよね」と口に出そうとした時、
「…小百合」
「…え?」
小さな声だったが、彼女の方が先に話し始めた。
「小百合、自分の話したい事ばっか喋って行っちゃったね」
「あ?あぁ、ホントに。でもそんなの今に始まった事じゃないしな」
そうか。小百合の話題があったか。彼女が先に話してくれて本当に良かった。でなければ今頃、俺は彼女に地球の今後なんていう壮大なテーマを突き付けてどん引きされている所だった。
そうかそうか、そうだよな。小百合を介して出会った訳なんだから、小百合の事を話しゃいいんだよな。
「そういえば、…あー…」
もう一つ大事な事を忘れていた。
何と呼べばいいのだろうか。いきなり呼び捨てなんて馴れ馴れしいというか図々しいし、だからといって名字なんてのも何か他人行儀過ぎる気がするし、でも名前もなんだかなぁ…なんて思ったりもする。
「あー…西山志穂さんはその…」
迷った挙げ句、思い切ってフルネームで呼んでみた。
すると、まさかフルネームで呼ばれるとは思っていなかったのか、直後は目を見開いてびっくりした顔で硬直していたが、突然口に手を当てて思いっきり吹き出した。
それに驚き、今度は俺がびっくりした顔で彼女を見つめた。
「…あ、ごめんなさい、フルネームで呼ばれるなんて、出席を取るときくらいしかないからびっくりしちゃって…」
顔を赤くしながらそう言うと、ツボに入ってしまったのか大きな声で笑い始めた。
笑いを取れた事は大いに光栄だが、そんなに笑われると、自分の失敗を笑われているようで恥ずかしい。


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