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深淵に咲く
【純文学 その他小説】

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深淵に咲く-7



コンガがリズムを刻み、シロフォンが柔らかいマレットで弾かれ、体のリズムと同調するような、心地良いメロディが奏でられている。
焚き火を囲う村人達はコンガに合わせ足を踏む。
シロフォンのメロディに上半身が同調する。
足下にある地明かりは光量が絞られ、舞台上の子供達を淡く照らす。
舞台奥のホリゾント幕には子供達の、
優雅に舞わす腕が、
つられ自立的に踏み出す足の動きが、
影となって映し出された。
BGMにシンコペーションを感じ、生きている様を小さな体で表現する。
主旋律のパターンが繰り返される随所で、村人の手にした棒が地面を叩く。

子供達の影もまた物語を紡いだ。
背景の木々と子供が絡み合い様々な生き物がホリゾント幕に現れる。
それは悪魔のようでもあり、
それは天使のようでもあり、
見たこともない恐ろしい獣のようにも見える。
その中を村人達が踊った。



踊りが終了すると、ホールが再びドッと沸いた。
合いの手を入れられる場面ではなかったが、それが観客達の素直な気持ちだった。
拍手のおかげで、初めの台詞が全く聞き取れず、拍手が鳴り止むまで待ってからもう一度言い直すという事態になってしまった。
美優は想定外の拍手に半ば呆然としながらも、胸に熱いものがこみ上げ体が震えた。

物語は中盤までは練習通りに進んだ。
もちろん、台詞や動きのミスなどはあったが、それは子供達の活躍を目に焼き付けようとやってきている大人達の集中力を削ぐ程のものではなかった。
子供達も、この舞台を成功させるために精一杯になっている。
薄暗い舞台袖では誰も口を開くものはおらず、じっと劇の進行具合を目で追っていた。
茜も例外ではない。彼女も出番になるまで舞台袖に置かれた椅子に座ることもなく、目を瞑りながら声を前に出さず、台詞を呟いていた。



場面は森の外からやってきた住民に、森の民が支配された。
今まであった村のしきたりは捨てられ、森の外の法律がもたらされた。森を出る事を知らなかった住人達に、外からやってきた人達は村を出るという選択肢を与えた。
この森に住む少女ハナにも外へ出る権利が与えられた。
しかし、森を出るのがいいか残るのがいいか、彼女は決められずにいた。
外へ出る派と留まる派で意見が衝突し、いつしか村には険悪な雰囲気が漂っていた。

濃い茶色の短パンに同色の半袖を身に纏ったハナが、下手(しもて)から舞台中央へと歩く。
アクリル製の透明な箱が中央に置かれている。注意を引かぬようひっそりと草むらの影にある三十センチ四方のそれは、場面転換の際に置かれたものだ。
ホリゾント幕には、満月を模した光が灯されている。
ピンスポットが上手(かみて)に点る。
上手に居た村人Aがハナへ話しかける。
「ハナちゃん、村の外に出るのかい? 村の外はいいよぅ。なんたって天国なんだから。そう、村の外から来た人が言ってたよ」
「天国?」
「そう、天国。こことは違って、なんでもあって、なんでも揃っている、天国のような場所なんだってさ」
「でも、この土地は昔から育ってきた土地です。離れるのは寂しくないんですか?」
「寂しいさ。寂しいけど、よく見てごらんよ。ハナちゃんはまだ決めてないようだけど、ここに残るって選択をした人を見たかい?
動植物を集め、動きが止まったら鞭で打たれる。休むことさえ許されない。もう何人も苛酷な労働に耐えきれなくなって死んでいるよ。ここはもう昔と違って地獄だよ地獄」
「地獄……ですか」
上手のピンスポットが消え、下手(しもて)に点る。


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