追憶-2
「まぁまぁ、聞いたのは僕だ。許してくれ」
そう言って頭を下げる。
先輩にそう言われ、さらに、頭まで下げられて、それ以上淀川に責めることが出来なくなった。
「でもよければ話してほしいな」
しかし、その事を口外したことがあまりにも少ない河東は答えに困り口ごもる。
男のモジモジをカッコいいともカワイイとも思えないが、どうしても、スラスラということなんてできなかった。
「いや、後輩にだけ言わせるのもズルイか…じゃあ、僕から白状するとするかな？」
新田はその手の事を語るのが好きな訳ではない。
むしろ、追憶することすらも躊躇う思い出でだった。
でも、話した方が良いような気がしたのだ。
新田が１年下の後輩に教えたのは自分の悲恋だった。
中学で初めて会った天野という女性に惚れていたらしい。
細かい違いはあったが、それは、中島に対する河東のそれとよく似ていることがわかった。
しかし、河東の過去に似たようなことが無い過去が新田にはあった。
でも、それはきっと純粋に時間の問題でしかない。
河東達がまだ経験した事のない高校生の冬休みに話は続いていたのだ。
去年の冬に新田が見たのは、見知らぬ男と一緒にいる天野の姿。
見知らぬ男の腕を抱き、その男に見せる天野の笑顔はとても綺麗だったという。
嫌な思い出だよっと
前半部分では河東自身が似た思いをしたことを、新田は知らない。
それでも、狙たように河東に当てはまるソレは、聞いていて気分の良いものではなかった。
「なんでそんな事を俺たちに？思い出すのも嫌なことじゃ？」
冗談は、もちろん嘘偽りの無い事を感じたからこそ淀川から出た疑問だ。
淀川の疑問と、眉が寄ってしまっている河東を見て、話した意味があったと満足したのか。
広げた話の風呂敷をたたみにかける。
「君たちは良い後輩だと思うけど、そんなトコまで後輩になって欲しくないからかな？」
２か月の付き合いとはいえ河東も淀川も新田にとっては大切な後輩だった。
同時に、同じミスをするのではないかと思ってしまう程によく似たところがある。
「そういうのを見てから、後悔しても”割り込み”はかけられないってことだよ」
自分の事なのにやれやれと肩をすくめて見せる。
「ということで、僕の恋人はしばらくコイツって事で…」
ガックリと首を倒して、指先でマイコンボードをくるくると弄ぶ。
「君達もこっちに来る？」
日本古来の幽霊が人を呼び込む手の形を作って手招きをする。
「「うっ!?それは…」」
思わず、河東と淀川の二人で声がハモった。
ここ数カ月の付き合いでも、新田という男が良い人物だということは理解していた。
そして、自分たちにさらに輪をかけて”マッドな”先輩ということも二人には理解できていた。
「はっはは。素直だね。君たちは」
しかし、それはこのままでは確実に自分の身にもおきる事だ。
彼女の居ない高校生活…いや、そんな事じゃない。
何年も想っていた女性が誰か知らない奴の腕を抱き、見たこともない”彼女”の笑顔を見ることだ。
それを考えると胃がキリキリと痛むのは、何か諦めきれていないことの証拠なのだろうか？
Ω×Ω×Ω×Ω×Ω×Ω
雑談BBS・1192作ろう小説で!・供養作品
×Ω×Ω×Ω×Ω×Ω×