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初雪と朧月
【初恋 恋愛小説】

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追憶-1

高校生活に入学して早くも3ヶ月近くが過ぎた6月後半。
工業高校特有の雰囲気や風習にも慣れ、何の問題も起きずに平和な日々が流れていた。
部活動もその特性ゆえに活気に溢れているとは言い難いが、腐れが続いている淀川と共に楽しんでいる。
たった三人しか部員の居ない特異な部活だ。
今、俺の前で白い枠の中を右往左往する小さな機械”マイクロマウス”と呼ばれるそれを、
どれだけの人が知っているだろう。
「お前らもう割り込み処理までやるようになったのか?」
呆れたように後ろから驚いたのは、2年生の新田先輩だ。
2年生が居ない状態で3年が去った去年の半年間"マイクロマウス部"を1人で支えてきた…ある意味での猛者だ。
「天才ですから」
お調子者の淀川がデンっと胸を張る。
「また調子の良いことを」
指を揃えて、張った胸を叩く。
こんな冗談交じりの会話をして過ごす日々だ。
「さて、突然だけど今日はここを閉めないといけないらしい」
終了のチャイムとばかり部室の鍵をカチャカチャと鳴らして新田部長がいう。
正直な物足りなさが三人から漂う。
「はぁ?。仕方がない、いつもの喫茶店でやろうか」
箱に何本も詰められたケーブルを一本と、他人から見ればガラクタにしか見えない、基板を鞄に詰め込み部室をあとにした。


場所を移し喫茶店”バリスタ”
コーヒーを淹れる職業を店名にした、個人が運営する小さな喫茶店は、客もいつもいる顔が数人居るだけの落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。
落ち着いた店の雰囲気に反して、奥の方でパソコンのキーを叩く音とモータを鳴らすテーブルがあった。
もちろん河東達である。
客が少ないとは言え、こんな事を許してくれるマスターには感謝の言葉もない。
「新田先輩は彼女とか居ないんですか?」
完成したプログラムをパソコンに処理させている間に、珈琲を啜り一休みの雰囲気になる。
一休みに淀川から出た言葉がそれだった。
出した淀川にとっても大した理由はなかったし、河東にとっても大して重大な話題では無かったはずだった。
「ん!?残念ながら居ないな」
知り合ってから2カ月、河東たちは新田からその手の浮ついた話を聞いた事がなかった。
当然だろう、無いものは話ようがない。
「そうですか。ウチ(工業高校)は女性との接点も少ないですからね」
どんなに見てくれの良い男でも、女っけの無いこの高校では彼女の居ない高校生活を送る人は少なくないらしい。
軽い気持ちで言った言葉は少し誤解を与えたらしい。
「河東君は僕が木の股…いや、トランジスタの股から生まれたとでも思っているのかい?」
誰もそこまで言ってない!!っと、2人して心の中でツッコミを入れたが、声には出さなかった。
「僕にだって惚れた女はいたよ。君たちだって…例えば、バイト先や中学時代からの付き合いの中に、1人は居るだろう?」
そう聞かれるとどうしてもフラッシュバックのように鮮明に彼女の顔が頭に浮かぶ。
中学卒業と共に会う回数も、会う口実もガックリと減ってしまった中島の顔が。
その次の瞬間に・・・
「あぁ?。コイツは居ましたよ」
そう言って河東を指差す。
淀川の言葉に一瞬頭が白くなる…
ただ間違いなく、淀川が彼女の事を言っているのはわかった。
他には何の選択肢もないからだ。
頭に一気に血が昇る
「淀川テメェ!?」
悪友の突然の暴露に、マジにキレそうになる。
右腕がひとりでに淀川の胸倉へと延びる。
掴んだのは俺ではなく新田先輩で、掴まれたのは淀川ではなく俺自身の右腕だった。


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