投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

缶コーヒー
【青春 恋愛小説】

缶コーヒーの最初へ 缶コーヒー 6 缶コーヒー 8 缶コーヒーの最後へ

缶コーヒー-7

 良太が聞こえないくらいの声で呟いた。
「いらなくなるなら、始めから子どもなんて作るなよ。惨めじゃないか。まるで残骸のようだよ。過去に父さんと母さんが愛し合っていたから俺は産まれた。それなのに愛が消えてなくなって。俺だけが残った。時がたったら、全てなかったことのように新しい恋をするんだよ。」
その言葉を聞いて私はハッとした。昔よくおんなじ様なこと思っていたから。その時からだった。ここにいる弱くて、もろくて、強く持つと壊れてしまいそうに繊細な心をもつ  少年を守りたいと思ったのは・・・。
彼に私は、何も出来ない、してあげられない。だけど話すことなら出来る。言葉を選んでゆっくり話し出す。
「人間だから。忘れていく生き物だから。でも、良太の気持ち私にもわかるよ。いらないなら、邪魔なら産まなきゃ良かったのにって思う。」
「美紀の家も上手くいってないの?」
「上手くいくもいかないもないよ。私は一人だから。いらないって捨てられちゃった。」
苦笑いで言った。
「美紀こそ笑うなよ。泣けばいいじゃん。」
そう言われると、泣いてよかったんだって安心して涙が溢れた。
「ずっと我慢してた。泣いたら事実を認めてしまうようで恐かった。本当は私にもお母さん必要なのに。でももう大学生だし。ワガママ言う歳でもないから。」
横を見ると良太も薄っすら涙を目に浮かべていた。
「ねぇ、なんで人の心って変わっちゃうんだろうね。なんで忘れちゃうんだろ。嬉しかった出来事も全てみんないつだって過去になる。」
「俺、愛ってやつが信じられないよ。愛情だって感情だろう。嬉しいとか、悲しいとかそういうものには約束は出来ないし、しないのに、なんで愛情というものに人は約束が出来るんだよ。一時的な愛情や、いとおしいと思う気持ちには素直でいたい。でも持続する愛の約束は出来ないよ。した瞬間にうそ臭くなる。どんな人の心も変わっていってしまうのに。これからも、あなたを愛し続けますなんて約束は俺にはできない。」
ハラハラ落ち葉が良太の制服についた。私はそれをつまんでとった。夕日にすかしてみた。赤くて綺麗な葉っぱ。涙でにじんでよけいに綺麗。

 ジンジャーエールを一口飲んだ、シュワッと口の中であわがはじける。
それから私は良太に向かって話した。
「うん。でも言葉にして確かめたい気持ちはわかるよ。気持ちだから、不確かだから何か名前をつけて安心したいんだよ。形にしたいんだよ。結婚て言うのは一時的な愛をこれからも持続させたい、ずっと一緒に居たいってその瞬間の気持ちをずっと大切にしたい人たちがすることなのかもね。」
「うん。」
ゆっくり良太がうなずく。
「でも一時的であれ、人が人を愛することは素晴らしいことだよ。だからね、私はお父さんとお母さんが愛し合った時のたくさんの愛が私にはつまっていると思う。たとえ壊れてしまっても私は壊れない。始めから壊れようと思って結婚する人はいないよ。それに私達十七歳や十八歳なんだよ。そろそろ自分の人生と向かい合って生きないと。もうお父さんの子どもでもお母さんの子どもでもない。私は一人の川原美紀であなたは一人の小林良太じゃない。」
なんで、私が、ひねくれ者でいつもウジウジしている私がこんな発言が出来たのかわからない。大人ぶっただけかもしれない。良太にいい顔見せたかったのかもしれない。でも私の胸の中でこんな想いが育っていたことなんて全く知らなくって私は驚いた。

 こんなに素直に自分が言葉を口にしたのは初めてだった。しかもかなり大人の発言だった。これが拓ちゃんの言った大人になれって言葉の内容だったのかもしれない。


缶コーヒーの最初へ 缶コーヒー 6 缶コーヒー 8 缶コーヒーの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前