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缶コーヒー
【青春 恋愛小説】

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缶コーヒー-10



 良太とどう接していいのかわからなかったし、携帯番号もわからない。わかってたとしても何を話していいかわからない。
家にかければ出るんだろうけどそれはしたくなかった。それに会うのが恐かった。

しかも、良太のことを想っているのは私だけかもしれない。良太はもうとっくに私のことをあきらめてしまったかもしれない。人の気持ちは変わるから。弟を好きになるのってアリなのかなぁ。良太の父親のことが急に気になった。私達親子は好みのタイプも遺伝するのかなぁってちょっと笑ってみた。でも違う。恋は遺伝しないと思う。私は一人の人間川原美紀として小林良太のことを想っている。
あれからもう二ヶ月。もうすっかり冬だ。もうすぐ大晦日。昔はおじいちゃんやおばあちゃんやお母さんと過ごしたなって少し切なくなった。一人ぼっちの大晦日、家族はいない。

 後期のレポートは書けることは書けた。たぶん単位も大丈夫。一応安心して年を越せる。いろんなことがあった一年だった。ありすぎたかもしれない。コタツに入って冷たい足を暖めながら一年を振り返っていた。あと、十五分で年が明ける。寒いけれどコタツから出た。帰ってきたとき暖かいようにスイッチはそのままにしよう。広い家で一人で居るのは身も心も寒い。
私は初詣に行こうとしてダウンジャケットを着込んだ。一人で年を越すのは寂しい
ドアをあけようとした時に玄関のチャイムがなった。こんな時間にいたずらかと思ったがドアを開けた。

 良太だった。首にマフラーをぐるぐる巻いていた。外は寒そうだ。
「どうしてうちの場所が?」
「母親に聞いた。」
そんなことはどうでも良さそうに急いで話を始めた。
「ねぇ、美紀。この感情に名前をつけると嘘臭くなる。約束も出来ない。それでもハッキリしてることが一つだけあるんだ。美紀のことを想っている。」
突然の訪問と突然な告白に私は驚いた。
良太はどう続けていいのかもどかしそうにしている。冷たい空気が玄関から家の中へ入り込む。
「私もこの感情をどう表現していいのかわからない。でも一緒にいたらいつか別れが来るそれが恐いの。壊したくないのよ。」
緊張した顔で良太が告げた。
「一緒に居よう。先はわかんないけど今しかないよ。今を逃したら一生他人のままだ。それは別れるよりも寂しいことだと思う。」
その言葉に涙が溢れた。不思議と今まで感じていた恐れが私の中から消えた。
「そうだね、持続できなくてもいい。ありがとうその言葉、今すごく嬉しかった。」
さっきまでコタツに入ってたのに手だけは氷のように冷たかった。頬はとっても熱いのに。私は自分の手で涙を手でぬぐって続けた。
「私も同じ思いだよ。気持ちは一緒。ねぇ、私達がこういう気持ちを持ったってことは消えないよ。人間は忘れていく生き物だけど、全てを忘れてしまうわけじゃない。大切な想いは一生忘れないはずだよね。」

 私達は大事な物を守るかのように優しくお互いを抱きしめた。良太の体は冷たくってコタツに入っていた私の体の熱を静かに吸収するようだった。
ちょうど除夜の鐘が鳴り始めた。
「あっ、年越しちゃったね。」
良太が笑う。
「今年は良太、T大生になるね。」
私が言う。
「なんか不思議だね。」
二人で顔を見合わせて笑う。

 それから良太と私は初詣に行った。この気持ち、出来ればずっと続けって私はお祈りをした。きっと良太も同じ様なお祈りをしたんだと思う。
互いの冷たい手を温めあうように手をつないで歩いた。照れくさくってたまに一人で笑った。良太もそのたびに笑った。
帰り道、誰もいない場所で小さくキスした。唇や頬も冷たくって、二人の鼻の先も冷たくってまた笑ってしまった。
良太をホームまで送っていった。大晦日から元旦に続く日の電車は一晩中運行しているけど、なかなか来ない。二人、手を繋いで待った。
ほんの少しの間だけのお別れなのにホームから電車からでて良太が行ってしまうのを見ると悲しくなった。


 約束も何もない私達の関係。これが二人のカタチなんだ。不器用な私達の精一杯の愛の方法なんだ。どうなるかなんてわからない今、この時を大切にすることしか出来ないよ。だから今そばにいてくれる人にあげられるだけの愛をあげようと思う。
良太、今年は楽しい一年になりそうだね。
あなたの隣りにいつも私がいますように。


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