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熊野の熱い夏
【フェチ/マニア 官能小説】

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「フロアマークを見つめて」-1

 私の名前はミキ。茨城にあるT大学の舞踊学科で、もうすぐ4年生になる。その日、私はN女体育大とのジョイントによる4年生の卒業公演に向けた最後のリハーサルに汗を流していた。私はその N女の卒業生、カオリ先輩とお昼を食べていた。カオリ先輩は1年間のフランス研修を終え、この公演の振り付け指導に参加していたのだ。



 一昨年の夏、私とカオリ先輩はジュンコ先輩とともに熊野にある舞踏集団、B塾の夏季合宿に参加した。めちゃくちゃ厳しい合宿で、私たち拙い下級生を体を張ってかばってくれた2人の先輩を私は姉のように慕うようになった。
「もうすぐ4年かあ。カオリ先輩たちは進路には悩まなかったんですか?」
「全然。だってあたしたち、ダンスしかできないんだもん」
 カオリ先輩があっけらかんと言う。
「でもミキちゃんにはさあ、あたしたちと違ってその賢いオツムがあるんだから、そのオツムを生かす道もあるんじゃないの?」
「あたしもダンス続けますよ」



 舞踊学科の場合、民間企業への就職は少ない。そのまま大学院に進むか他の舞踊団に所属してダンスを続けるケースが多い。ダンサーの世界は狭い。私の大学はつくばの田舎だけど国大なので文系も理系もいるし男子も多い。でもN女の先輩たちは、失礼だけど普通の男の子と知り合う機会はほとんどないんじゃないだろうか? 例えばジュンコ先輩の場合、大学のそばに住んで、大学で練習して、なるべく学食でご飯を食べて、あとは週に2,3日ダンススクールの講師として働く。それ以外の場所にはほとんど行ったことがないという。収入は、講師の他は舞踊団での公演と親からの仕送りだ。N女体育大が舞踊団を抱えているのだ。
 だからダンサーはダンサー同士で結婚することになる。ダンサーがダンサーとしか結婚しない理由は他にもある。ダンサーの生活の中心はすべてダンスだ。体のライン、特に指先のラインが崩れることをダンサーは極端に嫌う。ちょっと重い荷物は持ちたがらないし、炊事もしたがらない。もちろん子作りは御法度。それが一般男性には自己中に見えてしまうのだ。地方都市に移り住み、ダンススクールなどで細々と生計を立てる夫婦も多い。



 なかなか先の見えない職業だが、カオリ先輩はもうそこそこ自立している。ソロでも舞台に立っているし、振り付けの依頼もこなしている。ジュンコ先輩も順調な方の部類だろう。秋田の新聞社主催のコンクール、ソロの部で新人賞を取り、神戸で開かれる今年の夏の全国舞踊コンクール、シニアの部ではグランプリを狙っている。そして10月からは、文化庁の新進芸術家海外研修制度で1年間パリに渡る。一昨年にカオリ先輩が使った制度だ。
 カオリ先輩のダンスは独創的でエネルギッシュ、見る者を惹きつける力を持っている。この間のアルゼンチンタンゴとのコラボは好評だった。一方、ジュンコ先輩はどこか恥ずかしげで自信なさげな影がある。舞踊団を率いるN女のレイコ先生は、そんなジュンコ先輩を、まだ一つ殻を破れていないと見ているようだ。でも私は、ジュンコ先輩のダンスはどこか内省的な感じがして好きだった。じつは私と同じようなコアなファンが、ジュンコ先輩の周りには少なからずいた。


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