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熊野の熱い夏
【フェチ/マニア 官能小説】

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熊野の熱い夏-6

 舞台の幕が開いた。ある者はサイバーパンクっぽい衣装で、ある者は全裸に近い白塗りで学生達が踊り狂い、絡まり合う。近未来とレトロがない交ぜになった舞台、音楽は雅楽とロックの生演奏だ。みんなしっかり集中している。突然爆竹が鳴らされ、私とカオリが舞台の両袖に立った。私とカオリは白装束、中央にはあの屈強な舞踊手が上半身裸で立っている。だんだんクライマックスが近づいてくる。観客はもう汗の飛びそうな距離だ。男性舞踊手が私とカオリの腰を抱えた。私とカオリの体が大きく後方に回転する。私とカオリの大粒の汗が観客席の前列に飛び散るのがスローモーションのように見えた。次の瞬間、私はバランスを整えながらヒラリと地上に舞い降りた。隣を見ると、カオリがしっかりと立っている。その瞬間、拍手と歓声が沸き起こった。スタンディングオベーションだ。私たちはやった。やりきった。

 

 その日の打ち上げはさながらクラス会のようだった。「カオリ先輩、10月からフランスですよね。いいなあ」「ミキちゃんもそのうち行けるわよ。でもフランス語がさあ」「ああフランス語、難しそうよね」。私は気のない返事をした。「なに他人事みたいなこと言ってんの。あたしの次はジュンコだって、レイコ先生言ってたわよ」「あたし? あたしはいいよ。東京でもしょっちゅう迷子になるのにさあ」「ジュンコの方向音痴にも困ったもんよね」。わたしはまわりを見回した。塾長はどこにいるんだろう、と捜すといた。いちばん隅の席で静かにビールを飲んでいる。塾長ってあんな飲み方するのかなあ。その時、カオリが立ち上がってテーブルの奥にあるプレートを取ろうと身を屈めた。短パンから覗く左太股の付け根のあたりに、竹刀でできた痣のような青い跡があった。カオリだけじゃない、みんなのお尻にそんな跡が残っているはずだ。私のお尻の真ん中にも細長く赤黒い竹刀の跡が残っていた。

 私とカオリは最後まで残って後片付けをしていた。塾長一人がまださっきの席で飲んでいた。「お前ら、ちょっと来い」。私たちは顔を見合わせた。「そんな片付けなんか、明日みんなでやればいい。ほら、こっち来いよ。俺は今夜は、お前達と飲みたいんだよ」。塾長はグラスを二つ取り出すと、冷えたビールを注ぎ始めた。私達は3人でグラスを合わせた。「カオリ、ジュンコ、お前らほんとよく頑張ったなあ。初日の朝寝坊以外は満点だ」「ありがとうございます」。二人で言った。「俺は今年は、もうダメじゃねえかと思ったよ」「ダメって?」。私は聞いた。「だってそうだろ、1週間で60人の学生が18人になっちまったんだぜ。俺のやり方じゃもう若い奴はついてこないのかと愕然としたよ」「私達もこれ以上脱落者を出さないようにいろいろやろうって、カオリと話し合ったんだよね」。私はカオリの方を見ながら言った。すると塾長は、いままでにない慈愛のこもったような眼差しを向けながら私に言った。「そうか、そういうことがあったんだな。……それからしばらくしてな、ミキの奴が俺に話があるって来たんだよ」「ミキが? どんな話ですか?」。カオリが身を乗り出してきた。「カオリ先輩とジュンコ先輩ばかり叱らないでください。あたしが悪いときはあたしを叱ってください。他の学生もみんなそう思ってます、あいつ、そんなこと言いやがるんだよ」「ミキは、あの滝でみんなが練白粉塗るの嫌がってた時、率先してみんなを促してくれた。ミキがいなかったらどうなってたか」。私は言った。「そうだよなあ。あいつもいいとこあるよなあ。あの時もどうなることかと思ったぜ」「塾長さんって、意外と小心者なんじゃないですか?」。カオリの口調がリラックスムードになってきた。「はは、そうかもな。俺も長いこと夏季合宿やってるが、今年のお前達は最高に可愛い」「カオリ、ジュンコ、お前ら最高過ぎるぞ」。塾長はそう言うと、左の手でカオリの頭を、右の手で私の頭を、押さえつけるような荒っぽいやり方でなでてくれた。「二人ともまた必ずこの森に帰って来いよ」「はい」。私とカオリは声を合わせて答えた。

 帰京の電車はさながら修学旅行だった。濃密な熊野の森が遠ざかっていく。あ、いけない、レポート書くの忘れてた!


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