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「グラスメイト」
【青春 恋愛小説】

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「グラスメイト」-9

空は黒い雲に覆われ、今にも雨が降りそうな午後だった。そこに陳列している人々の心の中には、更に黒く淀んだ感情が沈んでいるのは、誰の目にも明らかだった。その日、誠の葬式は、しめやかに行われた。とても多くの陳列者と、その目に浮かぶ涙が誠の人柄を的確に表していた。けれど、僕は泣けなかった。実感がまるで湧いてこない。本当に、誠は死んだのだろうか。泥酔した見知らぬ人との口論の末の、ちょっとしたこぜりあいに巻き込まれただけで。打ち所が悪かったと言う理由だけで。それだけで、誠の人生は終わってしまったというのか。
誠の父親が遠くから僕にお辞儀をした。その目は、赤く腫れていた。
『俺も泣かせてみたいんだよ、親を。』
いつか誠が言った言葉が蘇る。言葉だけが蘇る。
誠、お前はこんな形で泣かせることを望んでなんかいなかったはずだ。
僕は周りを見渡した。けれど太一と陽平の姿は見つけられなかった。彼らの耳にも訃報は届いているはずなのに。
僕らが永遠だと思っていたものは、こんなに儚いものだったのか。
あの屋上で笑いあった日々は、もうこない。
それは、今となっては観賞用のガラス細工のようなもので、触れようとするとあっさりと崩れ落ちてしまいそうだった。
最高のクラスメートだった。
けれど今はもう、壊れ、散らばったガラスの破片。
その事実に触れようとすれば、怪我をしてしまうだろう。
「源川くんだよね?」
そんなことを考えていると、声を掛けてくる人物がいた。誠の兄だった。
「誠がねぇ、ずっと持っていた手紙があるんだ。あいつ、この手紙を出すか、出さないかずっと迷っていたみたいなんだけど。」
そう言って彼は僕に手紙を渡した。
「僕宛ての?」
「そうだよ。内容は知らないけれど、それを書くためにアイツ、あちこち駆け回っていたんだよ。だから、やっぱり渡した方が良いだろうと思ってね。」
誠が最後に遺した物に目を通す。
一生感謝しても、しきれない程重要な事実がそこにあった。
誠と最後に交わした会話を思い出す。
彼が無意味だと吐き捨てた僕の生き方を、価値あるものにするために、彼は。
手紙を握り締める。
誠、僕はお前をこの先ずっと忘れないだろう。
ひとの願いを叶え続けた男を、僕は絶対に忘れない。


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