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「グラスメイト」
【青春 恋愛小説】

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「グラスメイト」-7

「逢沢伸子?・・・・知らないなぁ。」
誠は、そう答えた。
「そうか、お前もかぁ。」
屋上に佇む四人。いつも通りの光景。
「珍しいなぁ、カズが女の相談なんて」
陽平、こういう話、大好き。
「いやぁ、ただの人探しだよ。お前が関わると、ろくな事ないから話に入ってくるなよ。」
俺、そういう陽平、大嫌い。
「つれないねぇ。でも伸子ちゃんなんて知らないなぁ。俺の頭にはうちの学校の女子全員の名前と容姿と趣味と好きなタイプがインプットされているのに。」
それは本当。しかしそのインプットされた情報は、一部が主によって改ざんされている。例えば、女子の好きなタイプの過半数が『陽平くん以外のヒト』であるという悲しい事実。
この前、その隠蔽工作を摘発したところグーで殴られた。そのあと引き篭もった。残念ながら二日間で復活。
 僕は彼女と会ったあの日以来、意識して彼女の姿を学校生活の中で探していたのだが、いっこうに見つからなかった。二週間が経過しても彼女は現れない。僕は気になりだした。
その頃の僕は、見つけるために彼女を探していたのではなく、見つからないから彼女を探していたのかもしれない。もし見かけたとしても、かける言葉すら持ち合わせてはいないというのに。僕は彼女のことを知らない。それなのにどうして、こんなに気になるのか。それを知りたい。彼女を探す理由をつけるとしたら、そんなところか。
 学級委員の誠や、情報屋(女生徒限定)の陽平をもってしても見つからないとなると、いよいよもって彼女がこの学校の生徒ではないという可能性が色濃くなる。
「どうしたもんかなぁ。」
僕は溜め息をしながら金網にもたれかかった。
「逢沢・・・伸子・・・。」
予期せぬ方向からの声に三人の顔が向けられた。
「太一、何か知っているんか?」
僕は言った。
「あまり覚えていないけど確か、一年の頃、そんな名前の生徒がうちのクラスにいなかったっけ?」
この学校はクラス替えが無いので、当然僕も知っていることになるのだが。
「そうだったか?覚えがないぞ。」
「一度も学校には来なかったからね。」
僕は首を傾げる。
「あぁ、そういやいたなぁ。」
と陽平と誠。
僕の頭の上には?マークが浮かぶ。僕は覚えていないけれど、いたらしい。何せ二年以上前の話だ。
「学校に一度も、ねぇ。」
言って僕は溜め息をついた。それなら会えるはずも無い。
『知らないでしょうけど、私、このクラスの生徒なんだよ。』
あれは本当の事だったんだ。彼女の顔が浮かぶ。それはとても悲しげで。けれど当然のこと。誰もいない教室で、ひとり目を閉じた彼女。そこに普段ある賑わいも、笑顔も知らず。
「行ってこいや。」
陽平は言った。
「どんな過程があったのか分かんねぇけど、まずは会って、それからだ。」
そうだな、と誠。
「先生に彼女の居場所、聞いてやるから。行けよ。」
その心遣いが、僕は嬉しかった。僕らが築き上げてきたもの。それは友情なんて言葉ですら、言い足りない。

その日の放課後、僕は彼女が入院しているという病院を訪ねた。この街の中では一番大きな病院で、ここに彼女は小さい頃から入院し続けているという。病名は、さすがに先生も教えてくれなかった。けれど、彼女が集中治療室の常連だという事実は、病状の重さを物語っていた。
「こんにちは」
僕は、病室をノックしてから中を覗き込んだ。
「はい、どちらさまですか?」
言ったのは彼女ではなく、年配の女性だった。おそらく彼女の母親だろう。僕は、その問い掛けに戸惑った。
「えぇと、あのう。クラスメートです。」
僕がそう言うと、母親は不思議そうな顔をした。するとベッドに横たわっていた彼女が気付いてくれた。
「あぁ、あの時の。」
「やぁ。」
僕は右手を上げて答えた。
「どなた?」
母親が彼女に尋ねる。
「ほら、話したじゃない。この前、学校に行った時に会った人のこと。」
そこまで言うと、母親はああ、と思い出したように頷いた。


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