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【学園物 恋愛小説】

嘘の最初へ 嘘 1 嘘 3 嘘の最後へ

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「あれ?副会長、才蔵先輩。私はてっきり会長がサボっているのかと思いましたよ」
 そう言って椅子を引き寄せると、ちゃっかり才蔵の横に座る瞳。
「やあ、皆さん。お揃いで」
 そう言って眼鏡の真ん中を持ち上げる伊能馬孝。
「何だって皆集まるんだよ?午後の授業はとっくに始まっているんだぜ」
 自分の事は棚に上げて、顔を曇らせる才蔵。
「人間は穴居動物であった名残から、雨が降ると本能的に眠くなるのですよ。それに何より、時として人には休息が必要です」
 孝の詭弁に呆れて言い返すこともできない才蔵。
 確かに長雨で気力を持っていかれる感はある。
「いくら此処が旧校舎の外れでも静かにね」
 今まで黙っていた摩耶はそう言うと欠伸をして瞳を閉じた。
 規則正しい呼吸が始まり、どうやら眠ったようだ。
 穴居動物の本能かどうかは別として、皆大きな欠伸をすると摩耶に倣って昼寝を始める。
 密かな寝息、水の戯れ、染み渡る雨音。
 心地良いシエスタの後、夕方に目が覚めた才蔵達は揃って学校を出た。
 雨は上がっており、才蔵達は談笑しながら帰ったのだが、その中で瞳が奇妙な事を言い出した。
 米田原が摩耶のよからぬ噂を吹聴しているというのだ。
 才蔵にしてみればさもありなんといったところだが米田原の女々しい行動は腹立たしい。
 やがて瞳と孝は電車に乗る為に駅で別れ、摩耶と才蔵は駅前通りを二人で歩く。
 イルミネーションの中を歩いていると付き合っていた頃に戻った気がする。
 あの頃は摩耶が隣に歩いているだけで誇らしかった。
 しかしそれは、摩耶の容姿に満足していたに過ぎない。
 あの頃の摩耶は才蔵の事をどう思っていたのだろう。
 気が付くと駅前通りを抜け、雑居ビルの前に差し掛かっていた。
 一階は学習塾なのか自転車が多数駐輪してあり、学生達がたむろしていた。
 その中の一人に米田原の姿があり、才蔵の顔が強張った。
 しかし、摩耶は気付かないのか足取りは変わらない。
 すると米田原の方がこちらに気づき、声を掛けてきた。
「十念ヶ辻、また新しい男か?とっかえひっかえ、お盛んだな」
 米田原の挑発的な言葉に才蔵は相手を睨付け、歩み寄ろうとした。
 しかし摩耶が肘を掴み才蔵を制する。
 そして摩耶は米田原に向かって頭を下げた。
「……ごめんなさい」
 意表を突かれ、鼻白む米田原。
 そのまま摩耶は才蔵の肘に指を痛い程食い込ませると、引っ張って足早に歩き出した。
 摩耶の横顔を見ると、似つかわしくない寂しげな表情をしている。
 無言で歩く摩耶に圧倒されと才蔵は何も言えなかった。
 やがて人気の無い住宅街に入るとようやく落ち着いたのか、歩幅が短くなっていた。
「訳分かんないよ、お前」
 才蔵は解放された肘をさすりながら不平をこぼした。
「別に、分かってもらおうなんて思ってないわ。て言うか、分かられたらうざったいだけだし」
 摩耶のひねくれた言いぐさに才蔵は呆れるが、それでも暫し言葉を探る。
「あのさ、相手を傷つけたくない、自分は傷つけたくないで垣根の向こうから覗いてばかりじゃ、結局さっきみたいにどっちも傷つくんじゃないか?」
「だから何!?」
 一瞬、声を荒げる摩耶。
 しかし直ぐに自制心を取り戻し、静かに言葉を続ける。
「だから何?そんなこと言われなくても分かってるわよ。分かってるから、そういうことも含めて全部受け入れてるのよ」
「……それって、辛くないか?」
「五月蝿いわね。そういう性格なのよ」
「難儀な性格だな……」
「お互い様よ」
 摩耶はそう言うと、それっきり何も言わなくなった。
 力無く歩く摩耶とその傍らに並ぶ才蔵。
 行き交う車のヘッドライトがやけに眩しい。


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