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【学園物 恋愛小説】

嘘の最初へ 嘘 0 嘘 2 嘘の最後へ

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 先週から降り続く村雨を窓から眺めながら、芳流閣学園副生徒会長十念ヶ辻摩耶は物思いに耽っていた。
 若葉の生い茂る櫻の木で校庭からは見えないが、苔むした旧校舎の小窓から覗く端正な横顔は全く一枚の絵のようである。
 雨音のリズムに身を委ねる美少女であったが、やがて静寂を破るように執行部室の扉が乱暴に開き、詰め襟の少年が姿を現した。
 書記の桐賀才蔵である。
「なんだ、十念ヶ辻か。通りかかったら明かりがついていたから、会長がサボタージュしているのかと思ったよ」
 振り返る摩耶。
 なんだとは何よと言い返そうとも思うが面倒臭いと言う顔をしている。
 ろくに返事がないのはいつもの事なので才蔵は気にも留めず、適当に議事録を取り出して斜め読みする。
「雷音寺君なら今日こそ赤ザンギ倒すんだってさっき帰ったわよ」
 言われて才蔵は暫し怪訝な顔をする。
「ああ、またゲーセンか。あいつ単位足りてるのか?」
「さあ?だけど雷音寺君、頭が良いから単位の計算くらいしてるんじゃない」
「心配するだけ損て事だな」
 才蔵はそう言って手近な椅子を引き寄せて腰を下ろした。
「それにしてもよく降るな」
 窓の外を見やる才蔵。
 だが摩耶は返事をしない。
「副会長。今度の映画観賞のアンケートなんだけど……」
 一瞥はするが、やはり返事は返ってこない。
 雨音だけがやけに耳につく。
「あのさ、十念ヶ辻。お前、二組の米田原と付き合ってるのか?」
 ふと思い立って訊いてみたことだったが、この質問には返事が返る。
「もう会ってないわ」
「奇遇がどうとか、私も見ていたとか言ったのか?」
「言ったわ……」
 妖艶な美少女の十念ヶ辻摩耶は男子生徒の間でも人気が高く、恋の告白をされることが多い。
 そんな時、決まってその愛らしい唇からこぼれ出す言葉は「なんて奇遇なのかしら。私もあなたの事をずっと見ていたのよ……」である。
 勿論嘘である。
 そもそも摩耶はどこを見ているのか知れたものではない。
 摩耶の言葉に苦い顔を見せる才蔵。
「なんでそんな嘘をつくかな」
「あら、そう言うと皆喜ぶのよ。人を喜ばせる嘘はついても良いってお婆ちゃんが言っていたわ」
 何を言っても無駄なのだとかぶりを振る才蔵。
 摩耶のような女性を傾国の美女と言うのだろう。
 世が世なら国の二、三は潰していそうだ。
 普通、美人というと端正な容姿である程に無機質で近付き難いものだが、摩耶の場合は加えて人を惹きつける何かがあった。
 そして、その惹きつけられた男の一人が才蔵であった。
 生徒会のメンバーとなる前、才蔵と摩耶は付き合っていたことがある。
 勿論、申し出たのは才蔵の方だ。
 可憐な美少女を獲得した喜びは大きいものだったが、摩耶との距離感が計れず、自然消滅的に別れてしまったのだ。
 決して心を開いていないであろう摩耶と一緒にいる事が次第にいたたまれなくなるのだ。
 聞けば、他に付き合った男達も似たような経験をしたらしい。
 生徒会で摩耶と顔を合わせた時は気まずかったが、摩耶の方はまるでそんな記憶が無いかのように振る舞った。
 そして、改めて第三者的に摩耶を見ていると、彼女は自分という人格を隠そうとしているかのように思えた。
 それは怯えの表れなのかも知れない。
「……でも、屈折した性格って事だよな」
 呟く才蔵。
 するとそこへ、生徒会の別のメンバーが姿を現した。
 小柄な可愛い女の子桃園瞳と眼鏡を掛けた伊能馬孝である。


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