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『スイッチ』
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『スイッチ』side boy-1

肌寒さで目が覚める。
暦の上では春なのに、まだまだ朝は冷える。
いつものように、ぬくもりの残る布団をかぶりなおそうと寝返りを打つ。
裸眼でもはっきりわかるほど近く、すやすや寝息をたてるかわいい寝顔。ぼやけた思考がはっきりと目を覚ます。
肩が触れるか触れないか、でもほんの僅かな身じろぎでくっつける距離で、そんなに無防備な姿を見せないでほしい。
部屋の寒さを理由に、僕はスキマに置かれた彼女の手に触れる。
彼女がこのまま目を覚まさなければ、臆病な僕でも今すぐに抱きしめられるのに。
「んーぅ」
絡めた指に違和感があったのか、掠れた声でくるりと背を向けられてしまう。
最近染めて明るくなった、ふあふあパーマのかかった髪の毛が僕の鼻先をくすぐる。
「ふ…ぁっくしゅ!」
不覚にもむずっときて、こらえきれずに盛大なくしゃみ。
「…んぁ?」
「ゆきちゃん、朝だよー」
何事もなかったように、というか気づかれたくなくて。少しだけ振り向いた彼女の頬っぺたをつつく。
「ねむ…」
大きな目を気だるそうにこすりながら、のそのそと動くゆきちゃん。
意識してないんだろうけど、こつんと触れてくる足の肌触りだとか、あくびをかみ殺してる顔とか、スウェットからのぞく白い肩とか。
(朝から刺激強すぎっしょ…)
僕だってオトコノコだから、彼女の部屋でこんな姿見せられちゃ、いやおうなしな生理現象。
「やばいゆきちゃん、男の子だからその、ね?」
「ん? あ、うん」
しょうがない子だねしんちゃんは、と軽く笑って、慌てて背中を向けた僕をまたいでいく。
ぺたぺたとフローリングを歩いていって、暖房とテレビをつけて洗面所に消えてく後姿。
水音が聞こえ出してから、よくやく僕は止めかけてた呼吸を再開する。
「あーもう、何でこんなに好きなんだろう」
聞こえませんように。
でも、ほんの少しでも伝わればいい。
こんなに、こんなに、君が愛しいってこと。


いってきますと部屋を出て行く彼女を見送り、カツカツと響く足音が聞こえなくなってから僕も行動開始。
借りたスウェットをたたんで、ぐちゃぐちゃになった布団も整える。
二度目のお泊りで僕がお願いしてから、当たり前のように用意された僕用の歯ブラシが定位置に収まってることに、つい顔が緩む。
ちゃんとこの部屋に僕の居場所があるんだって嬉しくて。
ただ、干しっぱなしの洗濯物はしまったほうがいいと思うんだけどネ。
無邪気な女の子かと思えば、時々はっとするくらい大人びた顔をしてて。
「あーもう」
帰らなきゃとつかんだジャケットを放り出して、せっかく整えたベッドに倒れこむ。
ふわんと香るラズベリーの香り。彼女のお気に入りの、たぶんシャンプーの香り。
「…もの足りない」
好きな人の部屋でセンチメンタルな気分になってる場合じゃないけど、ビタミン的な、ゆきちゃん成分が足りない。
ゼータクだと思う。
手もつなげたし、腕も組めたし、付き合ってもないのにこうして部屋にいられて。
でもやっぱり、確かな感触がほしい。
満たされてるはずなのに、どんどん渇いていく。
ワガママで、自分勝手な欲望まみれの自分が嫌になる。


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