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きみきみ さくらに ねがいごと
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きみきみ さくらに ねがいごと-5

(願い、か)
再び俺は例の願いごとについて考えていた。
改めて考えてみれば、馬鹿げた話ではある。あの男が桜の木――ちなみにあいつは今、キャンパス内を回っている――だというのも、願いを叶えてやるということも、すべてが怪しい。怪しいのだが、信じる他はない。昨日の饅頭だって、手品にしてはできすぎている。
それに、あの陽気で能天気な笑顔が、嘘を言っているとは思えないのだ。
(ひとつだけ、叶うとしたら……)
ちらりと葉山に視線を向ける。
するとちょうど彼女が顔を上げ、目が合ってしまった。俺は思わず視線をそらす。
(彼女と、付き合えるかもしれない)
そんなことを考えながら、俺はまたおそるおそる顔を上げた。
再び目が合う。葉山はじっと俺の方を見つめて、優しげな笑みを口元に湛えながら口を開いた。
「春休み、いつも研究室に?」
「あ……は、はい……」
俺はそう言って本を置く。
そして唾を飲み込んでから、俺は思い切って訊いてみた。
「あ、あの」
「ん?」
「も、もし……その、ひとつだけ願いが叶うとしたら……どんな願いにします……?」
緊張で僅かに手に汗がにじんだ。
「んー……」
葉山は暫し考えを巡らせるように視線を泳がせてから、くすりと笑った。
「いつまでも好きな人と一緒にいられること、かな」
葉山ははにかみながら、シャツの中に入ったチェーンを取り出し、それを見せた。
チェーンの先には、可愛らしいペアリング。
つまり、それは――
「……彼氏、と?」
微かに掠れた声での俺の問いに、葉山は照れくさそうに頷いた。

――覚悟していたことじゃないか。彼女に男がいるなんて。
それでも、突然知らされたその事実は、俺にとっては非常に重たく辛い。
見るだけで幸せになるような彼女の笑みも、今は苦しい。
多分顔を引きつらせていたであろう俺に、葉山は言った。
「三春君は?」
「え……」
「願いごと。何か、あるの?」
改めてそう訊かれても、何も、答えられない。
口を噤む俺に、葉山は軽くため息をついた。
「ねえ、三春君」
相変わらず優しげな笑みを浮かべてはいたが、その目は厳しいように見えた。
「わたしと話しているの、つまらない?」
「え……?」
「だって何を言っても笑ってくれないし、答えてくれないじゃない。もっと、笑おうよ。笑顔の方が、素敵だよ」
「……ッ」
俺は思わずかっとなってしまった。
がたりと席を立ち、椅子に載せていた鞄をひっ掴んで、研究室を飛び出した。驚く葉山に何も言わずに。

――図星だった。
そして、彼女にそんな思いをさせていた自分が情けなかった。
研究室の廊下を、キャンパスの中を、商店街を駆け抜ける。
すれ違う人皆が楽しげに笑っているように見えた。皆はどうしてこんなにも自分と違うのだろう。俺は彼等を見るのが辛くて、半ば目をつむりながら走る。

『もっと、笑おうよ』

葉山の言葉が頭に響く。
笑うって、なんだよ。別に楽しくもないのに、どうして笑わなきゃいけないんだ。
(……そうじゃ、ないだろ)
そんなふうに考えてしまう自分が情けなくて、悔しかった。
けれど、急にこの性格を変えろと言われたって無理な話だ。俺にはどうすることもできない。
(願いごと……)
そうだ、あいつの、桜の願いごと。この性格を変えて欲しいとあいつに言えば、変えてくれるんじゃないか。
(でも、それは本当の俺じゃない)
もし願いごとで性格が変えられるとしても、変わった性格の俺は俺じゃない。そのくらい分かっている。
一体俺は、どうしたらいいんだろう。どうしたいんだろう――。


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