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ジャム・ジャム・ジャム
【SF その他小説】

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トースト・トースト-9

「あいつ、相当気に入ってるみたいよ」
ブランチの時間もとうに過ぎた頃、あくびを噛み殺しながらキッチンにやってきたジャムに、ダナは言った。
「?」
ジャムは小首を傾げながら、キッチンのカウンターに置かれたクラッカーに手を伸ばす。
昨日の「ミニ誕生日パーティ」で作ったカナッペやプレーンのクラッカーは、もう既に湿気っていた。
そのクラッカーを口に咥えながら、冷蔵庫を指差すダナのところへ向かう。
「これこれ」
冷蔵庫の隅には、マジックで太く「EIJI」と書かれた――昨日ジャムが作ったママレードの瓶だった。
昨日のパーティで、その中身は半分ほどまでになっている。
ダナは笑って言った。
「独り占めしたいほど、気に入ってンのねェ」
彼の言葉にジャムは少しだけ頬を赤らめ、もう一枚湿気たクラッカーに手を伸ばした。


『BASTA CAFE』の看板が見え、エイジはアクセルを緩めた。
自慢のスカイバイクを店の前に停め、携帯音楽プレーヤーの電源を切る。
じゃかじゃかとうるさく鳴るヘッドフォンからの音漏れが途絶え、エイジは荷物を手にとってバスタカフェに入った。
「♪」
鼻を歌いながらゴーグルとヘッドフォンを外すエイジに、店の常連客が声をかける。
「よお、エイジ。機嫌いいじゃねえか」
「ほーんと。何かいいことあったの?」
ウエイトレスのチノが、カウンターに頬杖をついてくすくすと笑っていた。
昼飯時はとうに過ぎ、店内は茶飲みにやってくる老人たちばかりである。
ウエイトレスたちも時間をもてあましているらしい。
「そうか? あ、チノ。一番美味い豆挽いたやつとクラッカー、一袋ずつな」
エイジが言ってカウンターに座り、隣りの空いている席に荷物を置いた。
チノは意外そうに眉を上げてエイジに言う。
「珍しいじゃない、豆買ってくの。しかも一番"高い"やつ」
「ちょっと、な」
そんなことを話しているうち、バスタカフェのもうひとりのウエイトレスであるマキアが、彼の前にホットコーヒーと灰皿を持ってくる。
エイジは灰皿をマキアに返しながら苦笑を浮かべて言った。
「辞めたんだ、入院をきっかけにな。それとダナがうるせえから」
そして熱いコーヒーをブラックのまま口にする。
カップから豊かな豆の香りが立ち上り、エイジの鼻腔を突いた。
「さすが、俺の趣味を分かってるじゃん。マスター」
カウンターの奥で皿を拭いているマスターに声をかけると、彼はにっこりと優しげな笑みを浮かべた。
珍しくよれたシャツとそこはかとなく疲れている様子は、きっと昨日のバレンタイン・デイのせいだろう。
それでも毎年この日には、マスター自慢のバスタカフェブレンドを奢ってくれるのだった。
「で? 昨日はチョコレートたくさん貰ったとか?」
マキアが灰皿を元の場所に戻しながら笑った。
彼女の言葉に続けてチノも言う。
「毎年毎年四月の十五日になると、不機嫌になんだもんねーエイジったら。誕生日だってのに」
畳み掛けるように言う二人に、エイジはむっとした表情を浮かべた。
長い付き合いだけあって容赦ないが、性質の悪いことに彼女たちはエイジで遊んでいる節がある。
まあ、昔からこんな調子だから、エイジだって怒ったりはしないのだが。


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