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桜が咲く頃
【ファンタジー 恋愛小説】

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桜が咲く頃〜過去〜-5

矮助は廊下に出て、ふと止まる。
背中越しに
『俺が鈴のこと好きだっていうの、嘘じゃないから。
返事はいつでもいいよ。
俺、待ってるから。
おやすみ』

そう言うと、障子を閉め自分の部屋へ戻って行った。

鈴は思い出していた。

あの時、血まみれの自分を見た時、鈴は川に飛込もうと思った。

全てを無くし、生きる意味を見失った鈴は、いつも言っていた養母の言葉を思い出した。

「子どもを亡くした時、本当に辛かった…
生きていたくなかった。
死んで、あの子のところに行きたかった…
でも、周りの人が止めてくれて、私は生きていられた。
生きていたから、あなたに会えた。
生きていくのは辛いけど、それと同じくらい幸せもあるんだって、今になってようやくわかったわ。
あなたに会えて良かった。
生きていてくれて、ありがとう」

そう言って養母はよく笑っていた。

(こんな自分でも、まだ人の役に立てるだろうか?
生きていて、誰か喜んでくれるだろうか?)

そう思って、飛び込むのを止めた。


(矮助は、欲しい言葉をくれる。
わかっていた。
優しい矮助なら、受け止めてくれると…

甘えてしまった…

このままではいけない。
このままでは…!)

矮助は自室に戻る途中、あるものを手に取った。
それは、鈴に渡そうと思い買っておいた、かんざし。
赤やピンクの小さな玉がいくつも付いていて、揺らすとシャラシャラと音が鳴る。

渡し忘れ、今から渡しに行こうかと思い、やめた。

(明日、真っ先にこれを渡そう)

そう思い、大事に懐にしまった。
かんざしを身に付けた鈴を想像する。

(きっと似合うだろうなぁ)

矮助は顔を緩ませながら部屋に戻った。


次の日。
『鈴、起きてるか?』
矮助がいくら声をかけても返事がない。
いつもならすぐ返事が返ってくるのに…

不審に思い、そっと障子を開ける。

『入るぞ〜』

そこに、鈴の姿はなかった…

まるで、[鈴]という人物など



はじめから存在していなかったかのように──


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