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LUCA
【その他 官能小説】

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LUCA-6

 肉なのか血なのか分かりません。ドロドロとした赤黒い液体に、コインくらいの大きさのあなたは無残に引き裂かれ絶命しています。断末魔の叫びは誰の耳にも届かずあなたの存在価値ははじめから、1ミクロンも存在していませんでした。顔の形は宇宙人みたいに見えますが、十ヶ月も経てば可愛い赤ん坊。なきじゃくりながら呼吸をし、母乳を与えると、こくんこくんと可愛らしい顔で飲むんでしょうが、あなたは血まみれでバラバラで声を上げるべき声帯も備われぬまま、紙に包まれぽいと捨てられ燃やされてしまうのです。隣では、まあ、こんなに大きく育ったのに殺されてしまいました。ほとんど、四肢も顔も完成しているように見えますが、ギリギリセーフ、中絶完了です。ドクターがぐにゃりとした体を持ち上げています。眠っているようにも見えますが、その力のない肢体を見る限りでは、もう死んでいます。不道徳な行いの末に、望まれぬ命だと告げられ、あなたは愛されるべき人に見捨てられたのです。それが分からぬうちに



 二枚目の手紙には血液が付着していて、それ以上は読めなかった。手紙を書きながら流歌は手首でも切ったのだろうかと僕は想像した。

 三枚目。



 気が狂ってしまいそうです。私は間違いを犯してしまいました。失ってはならないものを失ってしまいました。殺してはならないものを殺してしまいました。正直に言って、この世界はあまり美しいものではありません。大変なことも、悲惨なことも山ほどあります。生きることは大変です。たくさん間違えます。私のように。たくさん後悔します。でも、そのことはそれをして初めて気づけるのです。生きていて、初めて生きる大変さを知るのです。私は今までに何度か死にたいと思うほど辛い思いをしてきました。ですが、今もまだ生きているのです。生きている以上、自分で死ぬタイミングは見計らえるのです。なかなか私が死ねないのは、本当に死のうとしていないからなのです。本当に死ぬ気になって、死んでいる人はたくさんいますから。でも、あなたはその権利すら与えられませんでした。死は平等だと思っていましたが、それは違うんですね。人って、それすらも奪ってしまうんですね。そのことに、気づきました。

 最後に、綺麗事を言わせてください。

 私はあなたにママって呼んでほしかったです。あなたに会いたいと、今は心から思っています。もしも、時間を巻き戻せるなら、私はあなたを産みます。パパはいなくてもいいから、せめてあなただけでもいてくれたら、そっちの方がよっぽど幸せでした。生活は大変になるかもしれないけれど、きっとその方が楽しかったです。中絶は恐ろしいことです。悪魔に魂を捧げるような行為です。どうして、私はあなたを殺してしまったのか、今はとても後悔しています。気づいたときにはもう遅いんですね。謝っても、あなたは許してくれないでしょうが、一言だけ。ごめんなさい。愛しています。これからも、ずっと。



     ☆☆☆☆☆



「あんたがルカを殺したのか?」

「そうだよ」と、言いながら僕は流歌の残した手紙を思い出している。私は間違いを犯してしまいました。失ってはならないものを、失ってしまいました。

「中絶がどうのこうの言う前に、あんたは殺人者じゃないか」

「その通り」彼の質問に答えながら、僕は何故、流歌を殺したんだろうと考えている。きっと、僕は彼女を救いたいと思ったのだろう。いや、あるいは、彼女の変化を恐れたのだろうか。僕の望んだ彼女と、全然別の彼女になっていくのが嫌で殺したのだろうか。はたして、彼女は本当に死にたかったのだろうか? 死にたいほど苦しんでいただけなんじゃないのか。もしかしたら、あの日、僕が彼女を殺さなければ、彼女はなんとか立ち直り、そして他の愛する誰かと結婚し、愛を育み、後悔を乗り越え、新しい命を生み出したのかもしれない。と、すると、僕はそのまだ見ぬ命すらも奪ったことになるのか。


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