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LUCA
【その他 官能小説】

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LUCA-5

三日が過ぎた。僕は彼女の部屋で三日間を過ごした。冷蔵庫の中には食料があったし、ベッドには彼女が居た。時折コンビニエンスストアへビールを買いに行った。彼女の部屋へ帰ると、「ただいま」と声をかけるが、彼女は返事をしない。三日間、一度も彼女は目を覚ますことはなかった。そして、四日目の朝に、僕は悟った。彼女は死んだ。本当の意味で、比喩も暗喩でもなく、彼女はその存在を消してしまった。ベッドに横たわっていたのは、かつては彼女であったものだった。もう、彼女はこの世界のどこにもいない。僕が愛した女神は、もしかしたら最初から存在していなかったのかも。「彼女は死んだ。僕が殺した」口に出してそういってしまうと、肩の力がふっと抜けた。そうだよ。彼女はもう還らない。



彼女の家を出る前に、随分と汚くなってしまっていたキッチンを片つけ、ごみを出し、掃除機をかけた。本箱の本を整理して、机の上を片つけようとしたその時、机の上に日記があるのを見つけた。その中に、挟まるようにして誰かにあてた手紙があった。



☆☆☆☆☆



 無題 / 宛先不明 



 こんにちは。ママです。あなたを殺したママです。こんなママでごめんなさい。あなたがこの手紙を読まないことは知っていますが、それでも私はこの手紙を書かずにはいられませんでした。初めに断っておきますが、この手紙はあなたに宛てたものでありながら、あなたのために書かれるわけではなく、だから、つまりは私のための手紙ということになるかもしれません。

 私の中にあなたがいることを知ったとき、私は正直に言って複雑でした。なぜならば私にはまだ子供を育てる準備が出来ていなかったし、それはあなたのパパも同じです。あなたのパパは、あなたが生まれてくることを望んでいませんでした。それならば、私は? 私は、正直に言ってどちらでも良かったのです。あなたがいて、パパがいて、私がいて、そういう普通の家庭が約束されるのであれば、あなたはここにまだ存在していられたかもしれません。でも、そうはなりませんでした。

 私は怖かったんです。あなたの存在が。何よりも、そのあとの生活が。たった一人であなたを育てていけるのだろうかという不安がありました。中絶をしている女性なんて腐るほど居るし、という考えも、多分あなたを殺すことを決断する要因になった気がします。人は弱いんです。あなたが簡単に殺されてしまうような弱い存在であるのと同じに、私たちはとても弱くてもろい存在なのです。都合よく、皆と同じであればそれほど不安にならないんです。残念ながら、私のように妊娠して捨てられた女性の大半は、中絶を選ぶでしょう。その方が正しい道で、両親もそれには反対しないんです。私も、それが当たり前だと思っていました。今、こうして中絶した後になって、私は中絶について徹底的に調べました。そして、気づいたのです。私はなんて恐ろしいことをしたのだろうと。言葉にしてしまえば、たったの二文字のその言葉が。気軽に「彼女が堕ろしちゃって」なんていう言葉の、その響きと価値がまるで釣り合っていないんです。

 私は中絶のビデオを



 一枚目の手紙はそこで途切れていた。僕は二枚目に目を通す。


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