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LUCA
【その他 官能小説】

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LUCA-7

「お前、俺を殺すんだろう?」

「殺す」と僕は言って、雑念を払う。そうだ。僕は彼を殺すためにここまできたのだ。さっさと済ませてしまおう。僕はポケットからバタフライナイフを取り出し、彼の右耳を落とした。刃の切れ味が悪いのか、なかなか切れなかった。乱暴に彼の耳を押さえ、のこぎりの要領でナイフをひいたり押したりする。ナイフを動かすたび、彼は叫び声を上げる。痛い、痛い。もう止めてくれ。ごめん。謝るから。殺さないで。許して。ぐちゅぐちゅと肉が削れ、血があふれ出る。やっと耳をそぎ落とすと、僕は額に汗をかいている。腹の底から叫び苦しむ彼の姿を見る。「痛い?」と聞く。「バカヤロウ。当たり前だ」と彼は応える。

「なあ、本当に俺を殺すのか?」

「しつこいな。そうだって言ってる」

「お前、名前教えろよ」

「青年A」

「本当の名前だよ。俺は、一体誰に殺されるのかもわからねえのかよ」

「教えたいのは山々なんだけど、本当に名前はないんだ」



     ☆☆☆☆☆



 流歌の残した手紙をポケットにしまい、僕は彼女の携帯電話を持って、彼女の部屋を後にした。携帯の電話帳から修の名前を探し、流歌の名前を騙って、メールでドライブに誘う。なんとか上手く会ってくれそうな状況を考え、僕が迎えにいくという設定にした。三日後の約束だった。

 インターネットカフェで、中絶の動画を見た。流歌の残した手紙にもあったとおり、凄惨な映像だった。男である僕が見ても、こんなに心が痛むのだ。女性で、おまけに中絶をした彼女がこれを見たのだとすると、そのショックは計り知れない。手紙の中で、悪魔に身を捧げるような行為、と形容していたが、それもあながち嘘ではない。



 決行前夜、僕は流歌の赤ん坊のことを思った。今、流歌を失ったこの世界で、その存在について深く考えられるのは僕だけだ。それが確かにそこにあったこと。その存在についてなど、僕以外の誰も考えない。実の父親である、あの男すらも。

 公園を想像する。大きな滑り台がある。シーソーもある。噴水の中で、裸の子供たちがはしゃいでいる。そんな公園に、僕と、流歌と、赤ん坊。ぽかぽかと陽気な日曜日、毎日の仕事の疲れを引きずりながらも、僕ら三人は元気に遊ぶ。とても幸せに、遊ぶ。僕は君に声をかける。今日はいい天気だね。ここのところ忙しくて、正直くたくたなんだけれど、それでも、やっぱり皆で公園へ来て良かったと思うよ。そんな事まで想像して、僕は赤ん坊に名前がない事を知る。

しばらく考えた末、僕の名前をあげることにした。そうなると、まだ性別も分からなかったはずの赤ん坊は、男の子になった。将来はサッカー選手か、それとも平凡なサラリーマンか。はたまた、派遣切りにおびえるフリーターか。どんな姿でもいい。大変な人生でもいい。だから、たまに笑ってくれ。そして、その笑顔を流歌にみせてやってくれないか?


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