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アンダー・ザ・スカイ
【大人 恋愛小説】

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アンダー・ザ・スカイ-3

ピンポーン
「はーい」
玄関のベルに、中から大きく返事が聞こえた。
「どちら様ですか」
「信也さんに、少し聞きたい事がありまして」
そう言うと、大きな応接間に通された。そこには、十数年前、一世を風靡したアイドル歌手の姿があった。
「私に聞きたいことがあるそうですね。まぁ座ってください」
言われたとおり腰を下ろすと、彼は私の顔をまじまじと見つめ
「失礼ですが、私と会った事がありましたか?」
と尋ねた。
「私は、蔵元陽平と申します」
菊池は腕を組み、くらもと・・さんねぇ、と唸る。
奥さんが応接間に現れ、お茶とお茶菓子を出し、彼の横に腰を下ろした。
「覚えが無いんですか、蔵元さんに失礼ですよ」
ずるり、とお茶を口しながら彼女が言う。
「蔵元!?」
彼は急に大声を出した。
「そうです」
私は彼の目を凝視した。彼が目を逸らす。ただそれだけで殴り倒したい衝動に駆られた。
「おい、ちょっと煙草を買ってきてくれ」
奥さんにそう告げる菊池。どうやら私がここにきた理由に、彼は気付いたらしい。
「まさか、今更麻衣さんの夫が訪ねてくるとは思いませんでした」
「確かあなたは麻衣と同級生でしたね」
「はい、お互いに、良い相談相手でした」
庭では彼の娘だろうか、小学生くらいの女の子二人が遊んでいた。庭というよりは庭園といったほうが正しいだろう。敷地内に川が流れ、橋が架かっている。さすがは芸能人。私とは何もかもが違い、少し引け目を感じる。私たちが持つ共通の話題といえば、そう麻衣の事だけだろう。
「麻衣さんの事は、とても残念でした」
どの口が、そんなことを喋りやがる。もう彼の全てに腹が立つ。
「何度」
私は、庭の少女を見ながら、とても低い声で言い放つ。
「えっ?」
「何度、寝たんですか?」
びくり、と。事実を肯定するように彼は震えた。
「やはり、知っていたんですね」
「いや、知ったのは最近です」
だから私は、まだ堪えられている。時間の流れは、やはり偉大なものだ。もしあと五年早くその事実を知っていたのなら、私は彼の胸倉を掴みあげていただろう。十年早かったら、彼に会った瞬間に横っ面を殴りつけていたに違いない。そして、十五年前。あの当時だったのなら。間違いなく彼を殺していただろう。
いつか悲しみは、憎しみは完全に風化してしまうのだろうか。
――― それならば十年後、その事実を耳にしたとしたら
彼に何の感慨も持たず、ただ事実だけを胸にしまいこむことが出来たのだろうか。
いや、それだけは決して。
だって私は一生麻衣を忘れられない。
それだけは確かで。
だから目の前の男とは、どんなに時間が経過しても相容れることはない。
麻衣、お前がいくらこの男を信用しようとも、いやだからこそ私は。


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