投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

アンダー・ザ・スカイ
【大人 恋愛小説】

アンダー・ザ・スカイの最初へ アンダー・ザ・スカイ 1 アンダー・ザ・スカイ 3 アンダー・ザ・スカイの最後へ

アンダー・ザ・スカイ-2

「あなた」
体を揺すられて、私は目を覚ました。
「和美、どうした?」
「あなたがうなされているから」
言われて、寝巻きがぐっしょりと汗で濡れていることに気付いた。
「そうか、また悪い夢でも見たかな」
胸がカッカッと熱い。ほてりを覚ます為、庭にでた。心地よい風が吹いていた。空には満月。静まり返った暗闇の中、LARKに火をつける。
「ふー」
吐き出された煙は、宙を漂う。
宙を、漂う。煙。落ちる、灰。つけられた、火。煙、灰、火、火災、火災、飛び込んだ麻衣、残された孤独。
「ぐ・・・ぐぇ」
浮き上がってきた感情に吐き気を覚えた。
胸のほてりは、まだ収まらない。収まるはずがない。炎はまだ燃えている。私の心の中、メラメラと。十五年経った。仕事は大成した。再婚をした。家を再び建てて、子供も出来た。それなのに。
麻衣の記憶は、色褪せることなく。
胸の中、残り続けて。
麻衣との思い出は、今も心を焦がし続けている。
そしてそれは、これからもきっと。
満月を仰ぐ。
毎夜、うなされているのは悪夢ではなく。
この現実にこそ、毎瞬私はうなされているのだ。
明日は麻衣の命日。十五度目の懐古。

例年通り、麻衣の墓参りには一人でやってきた。すると墓石の前には先客がいた。私に気付き、その人物は近づいてくる。
「どうも」
「あの、どちら様でしょうか」
「私は、こういうものです」
言って名刺を渡された。
「渡辺産婦人科医の渡辺徹さんですか」
言葉にしてみたものの、そこからこの男性と私を結びつけるものを読み取ることは出来なかった。

「あの、それで?」
「麻衣さんの夫ですね?」
「元、夫です」
そう言うと、彼は掛けていたメガネの淵を人差し指で持ち上げて、少し考えて続けた。
「そうですか、それじゃあもう良いかもしれませんね。麻衣さんの話です」
「何でしょうか?」
「火災があった日の朝、彼女は私の所に来ました」
「な、・・・」
「そうです。彼女は妊娠していたのです」
一瞬、気を失いかけた。
「けれど、それはあなたの子供ではありませんでした」
くらり、と激しい眩暈に襲われ、私は片膝を突いた。
「本当は、すぐにあなたに話すべきでした。けれど当時のあなたは、とても真実を話せるような状態じゃなかった。だから今まで隠しておいたのです。どうもすいませんでした」
深々と頭を下げる渡辺。私はその後ろにある、麻衣の墓石に視線を向けた。
麻衣は、そんなことをする様な奴じゃなかった。
けれど。
麻衣との最後のやりとりを思い出す。玄関で見た、彼女の顔はどうしてあんなに青ざめていたのだろう。
「私には、余計な口出しは出来ませんけれど」
渡辺は、私の視線の先を振り返りながら言う。
「確かに彼女は、貴方を愛していた」
「妊娠の事実を告げたとき、彼女は泣きました。夫に悪いことをした。私は一体どうしたらいいのか、と」
そこにかかってきた電話。パニックになっていた麻衣に襲い掛かる、更なる不幸。火災の知らせを聞いたとき、麻衣はどんな気持ちになったのだろう。絶望、そんな言葉ですら。
「一つ、教えて頂いてよろしいでしょうか」
私は、ひとつ深呼吸をして尋ねた。
「・・・はい」
「その相手の男性は?」
渡辺は、少し考え、再びメガネの淵を持ち上げた。
「菊池信也さんだと、そう聞きました」



アンダー・ザ・スカイの最初へ アンダー・ザ・スカイ 1 アンダー・ザ・スカイ 3 アンダー・ザ・スカイの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前