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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(中篇)-24

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街に点在する黒っぽい点は、ここからでも見ることが出来た。生き残った狗族たちを掃討するために、かなり多くの澱みが地上に放たれている。

「で…海の主なんて、ホントに居るの?」

茜は言った。黷は、動きのない戦に勝利を見出したのか、今はビルの屋上にいる。多分そこから、この荒れ果てた街の様子を睥睨しているのだろう。茜の捕らえられた、ガラス張りの折のある部屋には、部屋には澱みの姿はない。

「居ない。完全なる嘘っぱちだよ」

二人の男が同じ檻に放り込まれてからかなりの時間が経った。茜は最初、まだ人間がこの町にいた事に驚いたが、どうやらその二人が密命らしいものを受けていると聞いて驚いた。なんでも、東京湾に棲む海の主を覚醒させて、戦いに参加してもらうとか、自分達はその海の主を代々祀る家系の末裔だとか、聞けば聞くほど胡散臭い。しかし、面白い話ではあった。

「おれ達は大学でUMAのサークルをやってるんだけど、東京湾で目撃された未確認生物なんか、せいぜい巨大イカくらいだもんな」

茜は久しぶりに笑った。話を聞くと、どうやらその二人は、海の大王をたたき起こしに行くのではなく、戦いの経過を、油良という蛇族に報告するために従軍していたことが分かった。彼らは同じくハンディカムも持っていたというが、それは彼らがさらわれるときに置いてきてしまったという。ここへ持ってくれば、今までの戦いの様子や何かが全て敵側にわたってしまうことになる。茜はほっとした。

「君はどうしてここに?まさか、東京湾の主を起こしに行く途中で捕まった?」

軽口で場を和ませるのは河野という、おっとりした目のほう。それに突っ込むのが真田だった。

「ううん…あたしは…」

言いかけたところで、茜が言葉を切った。

「ある人に、会いに来たの」

「ここに…捕まってる?」

捕まっている。なぜかその表現がとてもぴったりくるような気がして、彼女は頷いた。夢の中で見た、ボロボロに朽ちた身体。何かを求めて手を伸ばす男の姿が、不意に蘇ってくる。茜は静かに言った。

「囚われてるの。身も、心もね」


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