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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(中篇)-18

「ぞっこんねぇ、南風。もちろんあいつは総大将なんだから、なにかしてるわよ。そうでなきゃ、あたし達はここで無駄に何かを待ってるってことになるもの」

声の明るさとは裏腹に、その可能性も捨てきれないと思っているような顔だった。その不安を裏付けるように、目の前の黒い結界には一筋の乱れもない。ほつれも、ほころびもなかった。ただ、最初と同じように、そこには敵の本陣があるだけだ。

今は、8月20日の午後12時。そのことが分かったのは、展望室にある巨大な時計が陽気に“12時をおしらせ”してくれたからだ。一人の狗族がおもむろに立ち上がり、音声を出していると思われるスピーカーに剣を突き刺した。

それ以降は、ほとんど誰も、何も口にしなくなった。



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そのころ、八条さくらと飃、そして“ゆう”と名づけられた害は、海を渡る道路の官理ビルに到着した。

彼らはここから一気にあの道路を突っ切り、敵の本陣へと突き進む。しかし今の状態のままでは、あの結界に阻まれて中に入ることは出来ないだろう。皆に知らされたのは結界が破壊されるという予定のみ。いつ、どうやって破壊するのかは、青嵐の頭の中にしかない。

さくらたちがここを出る予定の時刻まで、あと6時間。それまでは、ひたすら留まっているしかない。

さくらは、応接間らしい部屋のソファに害の身体を横たえて、額に手を当てた。ぬくもりの篭った手なのに、ひんやりと冷たい。自分の高熱と、さくらの体温を感じて、害は妙な気分になった。

「ん、熱は下がってきたみたいだね」

水を持ってくるから、とさくらが部屋を出る。すると、入れ違いに飃がやってきた。害の身体の調子が悪いのは本当なので、苦しげな演技をする必要はなかった。嫌な音のする呼吸でなんとか空気を取り込みながら、害は彼が音も無く歩いてくるのを見ていた。飃はソファの前のテーブルに腰を落とすと前かがみになり、害の耳元で、抑えた威圧的な声でこう言った。

「お前は、何者だ?」

害は答えられなかった。“人間だ”と白々しい嘘をついたところで、この男は騙されないだろう。この男ははじめから疑っていた。これからもそうだろう。

「…澱みだ」

彼は言った。熱に浮かされた目で、飃の目を見返した。飃の目には驚きも、怒りも無い。

「お前も分かっているんだろ?ならさっさと殺したらどうだ」

自棄になって、再び目をつぶる。しかし彼は、少しだけ身を起こして言った。

「お前の身体からは確かに澱みの気配がない。匂いは紛れもなく澱みのものだというのにな…何故だ?お前はあの時はまだ普通の澱みだった」

“あのとき”とは、彼らが最初に会ったときのことを言っているのだろう。飃の表情に、初めて困惑が浮かぶ。しかし、どういう経緯で今のような状態になったのかを説明しようにも、害自身にさえ、何が起こったのかは理解できていないのだ。

「僕にも分からない」

彼は正直に言った。


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