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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(中篇)-19

「最初は、戦いに力を使って疲れたせいで澱みの力が弱まったのかと思った…しかし今は自分でも分かる。僕の澱みとしての力は完全に封じられてしまっているんだ。原因は分からないが」

飃は、自分が理性的に澱みと会話していることに内心驚きながら、さくらが戻ってくる足音を聞きつけた。

「お前の正体が何であるにしろ、これだけは言っておく。あいつに手をかける様なそぶりを少しでも見せたら、お前は自分が気付く前に塵になっている」

飃は、害の頬にそっと手を置いた。その軍装の、袖の隙間から煌く白刃が見える。空気を焦がすような清浄な熱が、その白刃から発せられているのが分かった。

「それは分かったか?」

白刃はゆっくりと左目に伸び、そして止まった。害は目だけで頷く。

「わかった」

「敵の本陣に近づけば、お前は力を取り戻すかもしれない。さくらはお前を信じているらしいが、己はお前から目を離さんぞ。我々に牙を向いた瞬間に、お前を殺す」

金色の目は、薄暗い室内のわずかな光を集めてギラリと光った。脅しではなく、憤りもなく、そこには事実を告げる淡々とした表情があるだけだった。それだけに、害は彼の言葉に二言がないことを悟った。

「まだ出発まで時間がある。ゆっくり休め…“ゆう”」

飃は再び、さくらと入れ違いに部屋を出た。



飃は、さくらが甲斐甲斐しく澱みの世話をやくのを聞きながら、覚が彼に語った言葉を思い出していた。

「あの子は危険だ」

それは、彼のぼんやりとした懸念に根拠を与えた。何と無く感じていた、さくらへの危機感。変化が訪れた時を、飃ははっきりと特定することが出来た。あの時だ、あの時―

覚は言った。

「あの神社で、あの娘の思考と繋がった時に…見つけてしまった。あの子は欠けている」

“欠けている”という表現には抵抗を感じた。

「どちらかというと“過剰”なのかと己は思うが」

彼はその言葉にもうなずいた。

「同じことだ。とすると、あんたは彼女の中に無いものが何か、わかっているのだな」

飃は答えた。

「憎しみ、だろう。そう信じるに足る理由があるのだ」

「ああ。だからこそ、彼女は危険だ。普段の生活をする上では、憎しみという感情はそれほど重要ではない。しかし、彼女はこれから戦わなくてはならないのだ…。戦場で憎しみに頼らずに戦うことは難しい」

それは飃が良く知っていた。知りすぎているといっても良いくらいだ。

「青嵐の本拠地でのこと、聞いたぞ」

覚義は言った。


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