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1・2・3
【初恋 恋愛小説】

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1・2・3-9



雨の強さが増し、公園の中には人の気配がなくなった頃…
「大丈夫?」
市川君、息を切らしながら私に傘をかぶせ雨をさえぎった。
「…ありがと…」
私、自分の体が震えてるのにも気づかず、この言葉を出すのが精一杯だった。
「…今日は俺が聴くよ」
「………」
何を言ったらいいのか…
翔ちゃんは中学の時からつき合ったりしてた。だけど、デートを見たり、家に遊びに来たり、一度もなかった…同じクラスになって翔ちゃんとの距離が縮まると、遠い存在だとあらためて確認した。
「とにかく、びしょぬれだから家まで送る。着替えなよ」
市川君、私の腕を掴み抱え上げるように立たせてくれた。
腕から市川君の暖かさが伝わってくる。私の体、思った以上に冷えていた。
市川君の暖かさが、私の気持ちの糸まで切ってしまったように感じた…
「私、…私、もう振られてるのに、なのに、あきらめきれなくて、今だって…今だって、翔ちゃんには彼女がいるのに、私…」
私は市川君に腕を掴まれたまま崩れるようにベンチに座り込んだ。
それでも溢れだした気持ちは押さえられない。
「私、ずっと思ってた…いつか、時がたってこの気持ちは…翔ちゃんへの気持ちは、薄れていくんだって…だけど、だけど、違ってて…逆に気持ちが大きくなっていく…好きって気持ちだけが大きくなって…」
市川君、何も言わず黙って聴いてくれてる。
きっと何を言ってるのか分からないはずなのに…
沈黙が続き、雨の音が響く。
……恥ずかしい……こんな…
「…ごめんなさい…」
私、うつむいたまま言った。
「ううん」
市川君の優しい声が私の気持ちを落ち着かせた。
「とりあえず、着替えなきゃ、風邪ひくし」
私、うなずいた。
「送るよ、チャリだけど」
苦笑いする市川君、私も思わず笑顔になった。
雨が激しいせいで、市川君の自転車には二人乗りできない。市川君は自転車を押すから私が傘をさした。
「…今日ごめんね…」
帰り道、体の感覚が戻ってくるのを感じながら言った。
「いや、俺こそごめん、イマイチ上手い言葉出てこなくて」
「ううん、聴いてくれるだけで、私気持ちが楽になった」
私、小四の時から、翔ちゃんに振られた日からずっと、自分の中に翔ちゃんの事をため込んでたんだ…誰にも言わないことで忘れようとしてた。だけど、逆に許容量をオーバーし破裂してしまった。
「いつから好きだったの?」
市川君は笑顔で言う。いつか私が市川君に向けた言葉だった。
「さぁ〜分かんない。幼なじみなの…」
「へー、年は?」
「同じ」
「どこの学校?」
「S高」
「一緒?」
「うん」
不思議…翔ちゃんの事知らない市川君に翔ちゃんの事を話して、でも、気持ちがいい。
「いつ…振られたの?」
「小四の時」
「え?それ、振られたうちに入らないよ」
「ううん、でも、今彼女いるし」
「あ…そか、ごめん…」
市川君、肩をすくめた。
市川君ってやっぱり優しいな。
私の家に着いたときは雨は大分小降りになってて、市川君は傘を閉じて自転車にまたがった。
「道分かる?」
私、今来た方向を指さしながら言った。
「うん、大丈夫、それより風邪ひかないようにな」
「うん、今日は本当ありがとう」
深々と頭を下げる私に市川君が言う。
「なんかあったらいつでも言って、相談のるし、俺も相談するけど」
「ありがとう。あっ、この事サヤカちゃんには…」
「うん、分かった。じゃあな」
「バイバイ」
市川君、自転車のペダルを踏み込むと同時に振り返った。
「お互い、頑張ろうな!!」
私、市川君が見えなくなっても市川君が去っていった方向をぼんやり眺めた。


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