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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-6

「やあ、寒雲(ハンユン)、またこの子が君の思索の妨げをしてしまったようだ…すまないね、どうか僕に免じて許してくれ」

二階から二人の様子を見ていた人影が身を乗り出してまじまじと春雲を見たので、神立にもその男の顔がよく見えた。目の下にどす黒い隈があり、何日部屋に篭ればあんなふうな様相になるのか神立は密かに計算した。多分、一週間くらいだろう。もちろん、飲まず喰わずと言う条件付でだ。男は彼とは対照的に晴れやかな顔をした青年の仲裁に、不満げに鼻を鳴らすと、何も言わず部屋の中へ戻った。

すると、二人の表情はまたしても豹変した。春雲もその哥も、今、男が引っ込んだ部屋の窓を気にしながらなにやらひそひそと話し始めた。

「感心しないな、春雲。わたしがいつでもかばってあげられるわけじゃないんだ。お前の気持ちはよくわかる…私も同じ気持ちだ。だが事は慎重に運ばねば…」

「はい。ごめんなさい、哥さん」

そして、春雲の哥は妹の頭をぽんと叩き、背を向けてゆっくりとした足取りで去っていった。春雲はきびきびとした動きで神立のほうへ振り返り、茂みの中に手を突っ込んで再び神立の手を握ると、猛然と歩き出した。

「ねえ―」

言いかけて、神立は口をつぐんだ。一度口に出し始めたら、質問をとめることができなくなるような気がしたのだ。





春雲が自分の部屋の扉を後ろ手に閉める段になってようやく、神立は質問をする隙を見つけた。

「君は…」

でも、肝心の質問が頭の中でまとまらなくて、考えは湯船の中のごみの様に、掬おうとする手の中からすり抜けていってしまう。なかなか言葉を発しない神立を、春雲は見つめて、ちょっとわらった。

「おまえが、澱みに育てられていたという狗族だな?」

神立は面食らってしまった。同時に察した。これが春雲の本当の姿なのではないかと。少女は首を少しかしげて、優雅な仕草でふわりと寝台に腰をかけた。美しい刺繍が施された靴を脱いで、立てた片膝に頬を休めた。

「あ、はい、あの…そうです」

あまりに著しい変化を目の当たりにして、あまりに少女に威厳が備わってしまって、神立は戸惑いを隠せなかった。そんな彼に、少女は晴れやかな笑い声を聞かせた。

「よい、そのように堅苦しい言葉遣い、わらわは好かぬから。先ほどのように話して」

「でも…」

春雲はつったったままの神立に、寝台と向き合う長いすを勧めた。すっかりかしこまった神立は、それも拒んで立ち続けようとしたのだが

「おまえはわらわの頼みに応じて、青嵐(チンラン)が寄越したわらわの遊び相手でしょう。ならばそれ相応の言葉遣いをし、それ相応の態度で接してくれればよい」

少女は結った髪をいじりながら言った。

「遊び相手っていっても…」

「なにも飯事(ままごと)をしようというのではない。地上の生活のこと、青嵐の言う、地上で猖獗を極める澱みとやらのことを聞かせて欲しいのだ…」

長いすに腰掛けると、梅の香りがした。布地に香をしみこませておいてあるのだろう。


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