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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-7

改めて部屋を見ると、言いつけに逆らって再び萎縮してしまいそうなほどの豪華さだった。薄汚れた“子供部屋”で生活し、最近は倉庫の空き部屋で寝起きする毎日だから、こんな部屋はテレビでだって見たことが無い。天井からは―多分、金―のシャンデリアが小さいながらも吊るされていた。八角形の形をした不思議な窓は周りを彫刻の梅で飾られていて、ほこり一つついては居ない。石の床は綺麗に磨き上げられ、神立の膝までなら鏡のように映せるほどだ。春雲の部屋はまるで離れのようなつくりで、ちょっとした高台にぽつんと立っていた。平屋で、寝室と他の部屋が分けてあるわけではない。寝台と、その周りを含むスペースと居間とは、日本の欄間のような(しかしそれよりは繊細な)雲と梅の花の透かし彫りが上辺に施された柱と梁で仕切られていた。

「地上での生活の大まかなところは、颱や青嵐が手紙や写真で教えてくれるが…始終質問ばかり出来るわけではないであろう。忙しいし、ここにやってくるからには仕事がある」

「地上の生活に興味が…?」

少女は熱の篭った眼差しを神立に向け、うなずいた。

「龍はめったに地上に降りぬ…地上は穢れに満ちているから。でも、わらわはその地上に行ってみたくて仕方が無い。兄上たちはわらわに地上の悪いところばかりを教えようとするが、そう言う兄上たちだって地上に行ったことはおろか、雲の隙間から見たことも無いのだ…香雲哥さんは別だけれど」

春雲は寝台に仰向けに倒れ、天蓋を見つめながら寝台の淵から脚をぶらぶらさせた。こういうところは、まだ子供が抜け切れていないんだと、神立は少し安心した。

「なにが聞きたいんで…や、聞きたいの?」

まだぎこちないながらも、神立は畏まった口調を改めた。少女は満足げに喉の奥で笑い、今度はうつぶせになった。春雲は肘を立てて体を起こし、神立と向き合った。

「さしあたり」少女の好奇心は、あからさまに神立の傷跡に向けられていた。「その瑕の事を聞かせよ。その刺青はなんじゃ?」

神立は、綺麗な手が、自分の中のタールの沼のような部分に手を突っ込んでくるのを本能的に拒んだ

「名前…でした。昔の」

また敬語に戻っているのを嗜めてから、少女は聞いた。

「数字がおまえの名前?日本では子供に一郎やら二郎やらといった名前をつけるとは聞いていたが…澱みはよほど沢山の狗族を養っているのだな」

「養ってなんか無い!」

神立は声を荒げて立ち上がった。

「澱みは、養ったりなんかしない!」

目は怒りに炯炯と輝き、一瞬にして息があがった。少女は神立を見上げながらも動じたそぶりは見せず、彼の顔をじっと見つめていた。その、何も知らない真っ直ぐな視線が、自分の怒りや、過去や、悲しみを暴いてゆくような気がして、神立は顔をそらして小さな声で謝った。

「ごめん」

「謝ることは無い。わらわが無遠慮だったのだ。その瑕のことは、話してよいと思ったときに、話してくれれば結構」

そして、神立が再び腰を下ろしたのを目のはしに捉え、少女は庭に面した窓を見た。それは青く、地上から見るよりも澄んで見える。ここからなら、きっと星もよく見えるだろう。


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