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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-10

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―危ういところだった…

「許してくれ…」

暗い部屋の窓は分厚い布で覆われ、一条の光も忍び込むことは出来ない。煙は下から立ち上り、天井を物憂げに撫でて、再び沈んでゆく。さらばえた指は白骨のようで、頬骨は浮き上がり、額にはいつも汗が浮かんでいた。

―事を焦ってはいけない…

何気ない言葉に、これほどプレッシャーを込められる者も無い。その声が聞こえるほどに、男は震え、また血走った目は涙を流さんほどに潤んでゆくのだった。

「ゆ、許してくれ…次からは、気をつける…!」

煙が頭をたれた男の首筋を撫で、毒のように甘い声で囁いた。

―我慢するのだ…もうすぐ期は熟す…そうしたら、思う存分…思う存分に…

男は何度も頷いて、額から血が出るのも構わず、床に叩頭を続けた。

―王座はすでに、汝が手中にあるのだ…焦ることはない。焦らずとも…

叩頭は続いた。其のまま、気を失うまで、ずっと。



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「じゃあ、あれは?」

「あれは、新幹線」

水が欲しい。神立は、春雲につれられて“秘密の場所”に来てからそう思ったのはこれで15回目だ。とにかくこの少女の好奇心は尽きない。

二人は、蛍舞う池にかかった、屋根つきの橋の赤い欄干から足を下ろし、水鏡に映る下界を眺めていた。

「シンカンセン?字を書いて」

そう言って寄越した紙には、もう書くところなんか残っちゃ居ない。一番上の“信号機”から、さっき教えたばかりの“酔っ払い”まで、字はだんだん小さく、ぎゅうぎゅうに詰めて並んでいた。

「電車の仲間だよ。僕が知ってる中では一番早い」

本当は“リニアモーターカー”という代物があるのだけど、それを話すと原理やら何からまた質問攻めにされそうなので彼は黙っていた。大体、傍目には新幹線もリニアモーターカーもさほど違わないわけだし。

この水鏡のそばには、王と謁見する広間があり、龍の王族の協議などもそこで行われる。謁見、及び協議の行われる場所は、龍宮の敷地内にそびえる(丘に表情があるとすればだが)厳しい表情の岩山の天辺を、すっぱりと横に切ってその上に柱と屋根を据えたような場所に在った。この水鏡もその岩山の一角に作られている。

水鏡は、ある蛇の一族から、10年ほど前に寄贈されたものだという。龍と蛇は、水をつかさどるもの同士きわめて近い関係にある。これがあれば、現在地上で起こっているどんなことも見ることが出来るという鏡だ。この数年は、省みるものが居なかったせいでその輝きを失っていた水鏡だが、春雲が頻繁に除くようになった頃から、徐々に鮮明に物を映すようになったのだという。

ただし、たまに霞んだり、ぼやけたりすることはある。まるで使い古したテレビのようだ。もっとも、保守的な龍の中には、わざわざこの水鏡を望みにくる者など居ない。居るとしたら、「よっぽどの変わり者だ」と、春雲は自嘲気味に笑った。


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