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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第24章-11

―悪寒。

この悪寒は、澱み…。指先から始まった悪寒が、頭に這い上がり、後ろ毛をくすぐって背中へ抜けていった。目の前にあったのは、時代劇で見たような木で出来た牢屋だった。

「やっと、来ていただけました」

上から冷水を浴びせられたような感覚がして、私は本能的に七星を構えた。

私を待っていたのは、紛れもない、澱みだった。

「なぜ、ここに澱みが…?」

正方形に組まれた牢の格子の向こうで、暗闇に潜むそのものの姿を見ることは出来ない。私が部屋の中へ踏み込むと、すぐ後ろで待ちかねたように戸が閉まり、部屋の中に一つだけ明かりがともった。

「謀ったのか?」

薄暗闇の中に目を凝らす。どうやら人間の格好をしているらしい。“彼女”は顔を上げた。

「ある意味では」

私はその顔を見て、息を吸い込んだ。まるで子供だ。子供の姿をした澱みなんて見たことがない。その子は、まるで座敷童のようなおかっぱ頭に、赤い着物を着てちょこんと座っていた。

「何の真似だ!私に会いたがっていたのは…おまえなのか!」

格子に身を寄せ、七星でつくには間合いが足りない。歯軋りして、私はその場で更に強く七星を握った。子供の姿をとったから、私が澱みを切るのをためらうとでも思っているのか…檻の中の澱みは、動じることなく私を見返している。

「若い頃のお母様に、よく似ている」

騙されない。こいつが、私の母を知っているものか。

「笑った顔を見せていただければ…もっとそっくりに見えるでしょう」

騙される、もんか。

「それは…いつの話?」

襤褸を出せばいい。そうしたら、この格子を蹴破ってでも、一気に片を付けてやる。

「あれは、あなたが生まれる前のことでした。あの方は心の蔵に欠陥を抱えていらっしゃった。当時私は、名も、意思も持たぬ世界の滓(おり)に過ぎなかった…」

その澱みは、誰かと話をする時には、相手の目を真っ直ぐ見据えたまま、微動してはいけないという作法を教え込まれてでもいるようだった。

「私は、病院で日々募ってゆく人間の“穢れ”を糧に、私自身“穢れ”として徐々に力を増してゆきました。あれは、人間の言葉を解するようになってから、かなりの年月を過ごした後のことでした…」

マネキン人形のように表情を持たない澱みが、過去を懐かしむように語る声を発するのは何故なのだろうか。私は相槌も打たず、かといって話を邪魔することも無く聞き続けた。襤褸は、そのうち出るだろう。そうしたら、この檻を蹴破ってやる。

「貴方を身篭った、八条皐月という女性が、私の住処だった病院にやってきたのです」

そこで初めて、澱みはつと、顔を背けて暗闇に視線を移した。


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