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あなたの傍で〜言の葉〜
【純愛 恋愛小説】

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あなたの傍で〜言の葉〜-3

小屋に入ると、僕の腹の虫が鳴いた。
時間を確認すると、もう正午近くだった。
そういえば、朝飯も摂っていない。
早速、僕は昼飯の支度に取りかかった。
普段は独りだから、料理を作るなど稀である。
食材は十分揃っているのだが、それらを使いこなせる程の腕は僕には無く、結局のところは、毎回似たり寄ったりなモノが出来てしまうのだった。
出来上がった料理を皿に盛り付け、それらをテーブルに並べていると、匂いに釣られて起きたのだろう、少女がこちらを見ていた。
普段と違うのは、ちゃんと二人分作っていること。
僕は少女に手招きをした。余程お腹が空いていたのか決して美味いとは言えない料理を、少女は凄い勢いで食べている。
少女が一通り料理を食べ終えた頃を見計らい、何語が通じるのかを試してみることにした。
日本語が通じないのは判っていたので、英語から始めて、中国語、韓国語、ポルトガル語、ジャワ語など、知っている言語を片っ端から試してみたが、どれもこれも全て通じなかった。
僕は会話をすることは諦め地道に日本語を覚えてもらうことにした。
そのためにもまず、簡単な自己紹介をした。
『僕の名前はとうや、と・う・や。』
自分を指で差しながら伝えた。
少女はそれが自己紹介だと理解したらしく、僕を指差しながら何度もとーや、とーやと呼んだ。
『君の名前は?』
僕は少女を指差しながら尋ねた。
『クゥ!パオラ・クゥ!』と少女は自分を指で差しながら答えた。
コミュニケーションなんて言葉は通じなくともボディランゲージで何とかなるものだ。
自己紹介が済んだので、今日はここまでにした。
焦る必要は無い。
時間はあるのだから。
クゥは食事の後、食器を片付けようとしたが、まだ安静にしなくてはならないので、ありがとう、と一言だけを伝えベッドへと寝かせた。
片付けの後の一服も終わり僕はクゥの寝るベッドに背をもたれるようにして座った。
そして考えた。
僕は何故この娘をこれほど世話するのだろう。
久しぶりに人と居るからだろうか。
しかし、そもそも人と居るのが嫌でこの島に移り住んだはずなのに。
いや、分かっている。
クゥは何も知らないから。そして独りだから。
だから、僕は一人の人間としてクゥを放って置けないんだ。
それに、歳の離れた妹が出来たみたいで…なんだか……。『…や……と…や、とーや!』
クゥの呼び声で、僕は目を覚ました。
いつの間にやら眠っていたらしい。
寝呆けながらも声のした方を見上げると、クゥが料理をしていた。
窓には西日が差している。もう夕方になっていた。
クゥはだいぶ元気になったのだろう。
生き生きとしているのが分かる。
それにしても、驚くほどの回復力だ。
僕は感心しながらコーヒーを煎れた。
コーヒーが出来上がると、ちょうどクゥの料理も完成したところだった。
僕の目の前にあるそれは、どれも初めて見る物ばかりだったが、昼のそれとは同じ料理と思えないほど美味そうだった。
僕はまず、大皿に盛り付けられている料理から口に運んだ。
『おお!美味い!』
直接的な感情は、口から零れてしまうものだ。
僕はまた料理を一口食べながら、笑顔で『うまい!』と言った。
美味しい、という感情が伝わったようで『うまい、うまい、クゥうまい!』と満面の笑みを浮かべていた。すると、僕の手元に視線を感じた。
料理の途中で飲んでいる物を、クゥは気になっているようだ。
そこでイタズラ心が手伝いクゥに一口勧めてみた。
僕はコーヒーに、ミルクや砂糖などの余計な物は入れない人なので、クゥの反応は当然予想出来た。
それを口に含み、一目で苦いのだと分かる表情を浮かべた。
僕はクゥと同じ表情をしながら『コーヒー、苦い、にがい』と教えると、クゥは首を大きく横に振りながら『にがい、にがい』と小さく叫んでいた。
この時からクゥの中では、『うまい』の反対が『にがい』となるのだろう。
こんなやり取りが、僕は楽しいと思えていた。


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