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嘆息の時
【その他 官能小説】

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嘆息の時-5

「愛璃ちゃん、どうしよっか?」
「そうね〜、とりあえず店長を送ってあげないと」
愛璃が、意識朦朧の柳原を見つめ、心配そうに言った。
「でも、店長の家って遠いんだよな〜。それに、今夜はカプセルに泊まるって言ってたし」
「じゃあさ、沢木さんとこに泊めてあげたら? 近くに引っ越したんでしょ?」
「それは別にかまわないけど……まだ部屋の中が片付いてないんだよね」
「いいじゃない、ちょっとくらい散らかっていても。それに私も見てみたいしね〜、沢木さんの新居」
「ふう……まあ、いっか。じゃあ、俺んちに行こうか」
「うん」
愛璃は、嬉しそうにしながら大きく手を振ってタクシーを呼んだ。


柳原は、これまでにないほどの幸せな夢を見ていた。
従業員みんなに祝福されながら歩くレッドカーペット。
ひとりひとりに笑顔を振りまき、そのお返しにと、色鮮やかな花びらを宙にバラ巻く人々。
柳原の隣には、華やかなウエディングドレスに身を包んだ滝川愛璃がいて、眩いばかりの笑顔を向けている。
二人はゆっくりとレッドカーペットを進み、室内へ入るや否や唇を重ねた。
夢とは何とも都合よく場面が変わるもので、柳原の場合もそうだった。
いつしか全裸となっている柳原と愛璃。
仰向けに寝ている柳原が、愛しさに溢れた眼を愛璃に向ける。愛璃もまた、愛しさに溢れた眼で柳原を見つめた。
見つめ合う二人の顔が徐々に重なっていき、愛璃の細くて長い指が勃起したペニスに優しく絡みついていく。
柳原は、悶えながら腰を突きあげた。
その突き上げた腰に向かって、柳原の唇を離れた愛璃の顔がスーッと降りていく……ゆっくり……静かに……愛璃の唇が、勃起したペニスに触れる……夢と現実が徐々に入り混じってきていることに、柳原の脳が気付き始めた。そして、至福の瞬間はここで終わった。


「ああ……頭が痛い……割れる……ガンガンする……つか、ここ、何処だ?」
金槌で殴られ続けている頭を抱え、ムクッと上半身を起こす柳原。
真っ暗闇の室内を、ボーっとした顔でゆっくりと見回してみる。
後方にある引き戸の隙間から、縦に真っ直ぐと光が漏れていた。そこからは、沢木と愛璃の会話が小さく聞こえていた。
(なんだ? ここは沢木ん家なのか?)
柳原は、しばらくボケッとしていたが、激しい喉の渇きに耐えかねて四つん這いで静かに引き戸のほうへと向かっていった。

「ふーん……で、店長は何て言ったの?」
「誰か紹介してやろうかって」
「あははっ、それはひどいね〜。で、傷ついちゃったわけだ」
「ていうか、恋愛対象として見られてないから……ねえ」
「うーん、まあ……12歳も離れていれば、無理ないといえば無理ないかもしれないけど」
「ふふっ、もういいの。まあ、もともと私にとっては雲の上の存在だったし。それに、どこまで本気だったのか……自分でもよく分かってなかったしね」

耳に聞こえてくる二人の会話に、柳原の動きが止まった。
(俺の事を言ってる……ど、どういうことだ? もしかして、滝川くんって俺のことが好きだったのか?)
柳原の息が、不規則に乱れていく。乾いた喉に、かき集めた僅かな唾をグッと流し込んだ。
柳原は、吐き出す息に震えを交えながら、静かに何度も深呼吸した。


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