天むす〜前編〜-1
私は後藤春花…
10月9日生まれ、てんびん座。
先月私は念願の上京を果たし、長崎の実家から旅立った。
何故東京に行きたかったのか…。それは家でやっていた養鶏場を継ぎたくなかったから。
それと、もう一つ……
【天むす】
上京してからというもの、私は飢えをしのぐため、バイトを二軒やっている。一つはフローラル三日月という花屋。
正直楽そうだからと思って始めたのだが、都会の花屋は上品極まりなく、忙しさも半端ではない。
8時間手を休めることなく働かされて、そのあげくに給料は雀の涙。いっそのこと辞めてしまいたいのだが、たまに来る客に凄く素敵な人がいて、ためらっている。
……とはいえ、駆け出しの素人である私はその人と会話するどころか、裏方でセットの組み立て作業をしたり、掃除しかさせてもらえず、いつも見ているだけである。
もう一つのバイトは住んでいるアパート近くで見つけた定食屋。こちらは逆に客が少ないので正直楽だ。まぁ、給料はやはり少ないが…
「あ"ー疲れた…。」
花屋での仕事が終わった私は、今日も足を引きずるように帰りの電車に乗った。
「ったく、雑用しかしてないのになんでこんなにキツイんだろ…。」
上京してからというもの、私の口からは愚痴しかこぼれてこない。
おまけに、地元じゃ8割方座れた電車も、いつも満席。それどころかいつも満員になりかけている。
疲れきっている私は決まって電車の吊革にぶら下がって到着するまでカクンとしている。
今日はやけに電車が混んでいる。最初はそうでもなかったが、とうとう耐えられないほどの満員電車になってしまった。
息苦しい…。
それに暑い…
私は満員電車に完全に閉じこめられてしまった
そして、、、、
《お待たせしました〜八幡山でございます……》
降りなければならない駅に着いてしまった。
この満員電車の中でどうすれば降りれると……
近くにいたオバチャンやオッサンは周りを強引に押しのけて降りていった。そんな真似、私にできるはずがない。
だが…このままでは……
その時だった。誰かが後ろから私を触ってきた。明らかに男の手だ。私は怖くなって、そこで固まってしまった。
抵抗しないからなのか、男の行為はエスカレートしていく。すでに降りるはずの八幡山は通り過ぎてしまっていた。
誰か……助けて……
そう思った時である。
男の手が何かに吸い込まれるように、急に離れた。
私は事を確かめるために勇気を出して後ろを振り向いた。
中年の男の首を隣りにいる男性が締め付けている。この光景はすぐに周りの注目を集めた。