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願い
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願い-7

その日家族は大きな荷物を抱えて身支度をしていた。
 予てから引っ越し先を探していた一家は丁度よい物件を見つけて引越しとなった。慌しい決行となったが、もとより母親の出産の為に医者が近くに居たほうがいいだろうという引越しだった為、母親の体調に気遣いながらも準備が出来次第、即出発と相成った。

 快晴だった天候が次第に空全体を薄暗い暗雲が包み始めていた。母親はそれを不安そうに見つめていたが、父親が急ぎなさいと促す。
 荷物を詰め終わり車が走り始めて三十分した頃にはポツポツと小さく地面が濡れ始め、やがて大粒の雨が視界を遮るかの様に地面に叩き付けた。激しい雨、雷の音、視界が悪いため父親の運転も荒くなり時々大きく車体は揺れ少年は私をいつもより力を込め抱きしめていた。


「うわあ!」

 父親の焦った声。
 そして一瞬の衝撃。
 動かない車に、横転した車体。何かに衝突したのだと理解するのにそう時間は掛からなかった。

「うぅ……う……」

 聞こえて来たのは誰かの呻き声、それが母親のだと分かると同時に少年はすっかり暗くなった車内を見渡した。

「お母さん! お母さん!?」

「お腹が痛いの……う……産まれる」

「待ってて誰か呼んでくるから!」

 事故の衝撃か産気づいた母親に少年は声を掛けると、衝撃で開いたドアから弾けるように外へと飛び出した。

 既に辺りは陽が落ちて暗く、更に豪雨が視界を霞ませる。叩き付ける雨に構うことなく少年は光を捜すと街の明かりが僅かに見える方向を見つけた。

「あっちだ! 待っててお母さん!」

 その時、天を割る様な雷光が一瞬辺りを照らした。本当に僅かな時間だったけれど少年は見てしまった。街の明かりの方向には、大きな川そしてそれを渡る為の橋。そしてその橋は落雷のよる衝撃だろうか、大木によって今にも崩れ落ちそうになっていることを。
 少年にも絶望的な情景として瞳に映っていただろう、橋の下の川はこの天候でうねりを上げている。こんな濁流に飲み込まれたら少年でなくとも一溜まりもない。

「どうしよう……どうしよう」

 けれど今の時間にも母とお腹のまだ見ぬ弟か妹が苦しんでいる。

「大丈夫……大丈夫……」

 自分に言い聞かせるように少年は歩を進めた、抱き締める私にさえ伝わる位に少年の体は震えていた。この少年の小さな体にどうしてここまでの勇気が出るのだろうか、橋は強風に揺さ振られその度に少年は「大丈夫……大丈夫」と自分に言い聞かせるように呟きながら震える脚を動かすのだ。

 私は信じてすらいなかった神という存在に初めて祈った。

『神様、神様お願いだからこの少年を無事に街まで行かせてあげて!』

 それは祈りが終わると同時だった。先ほどとは比べ物にならないくらいの落雷、耳に突き刺さるような轟音に駆け抜ける稲光。


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