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願い
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願い-1

 気がつけば私は独りぼっちだった。

 孤児院の前に捨てられていた赤ん坊、それが私。
 孤児院での生活はまだまともな方だったらしい。三度の食事には困らなかったし、暖かい寝床もあった。周りには同じ境遇の子達もいたから辛くなることもなかったしそれなりに楽しかった。
 けれどそれも私が十四歳になるまでの話で、もともと経営の悪かったという孤児院は必死の抵抗も実らずにあっさりと建物は差し押さえられてしまった。
 バラバラに出て行かされた後、一部の仲間達と共同暮らしをしていたけれど病気や餓死でその数も減っていく。当たり前だ私たちは病気になったって病院にいく事すら出来ないのだから。そうして終には独りきりになってしまった。

 それから後はお決まりのコースだと云う。
 文字すら満足に読めない私は体を売って生計を立てるしかなく、その日を暮らしていくのが精一杯のやっとの暮らし。まともな客もいれば暴力や薬を嗅がせてとんずらする最悪な客もいる。殴られて、蹴られて、罵られてそれでもただ日々を過ごしていた。ただ毎日呼吸をして、食事をして、寝るだけ。
 嬉しいとか楽しいとか悲しみも苦しみも私には要らない感情。
 瞳も唇も鼻も手足も何も必要ない、生きているのか死んでいるのか、それすらもわからない。
 何も感じない、考えない人形のような人間だった。



 
 だからその日冷たくなっていく人間だった塊が横に居たって私は何にも感じなかった。


 私を買った間抜け面した狸爺が軍のお偉いさんだと知ったのは、警察に連れて行かれてからだった。ゲヘゲヘと気持ち悪い笑みを浮かべて金を握らせてきた変態爺は半世紀程前の内乱で偉大な功績を挙げていた英雄扱いの軍人だったらしく英雄の中にも変態はいるのだなと感心した。

「おっさんに金貰ってやってたら首を絞められて殺されそうになったから殺っただけ」


 警察では真実を話しただけなのに、「嘘をつくな!」と叫ばれ散々罵られた後、私は何時の間にか英雄を殺した凶悪な殺人鬼として新聞の一面を賑わせたという。

「お前は死を持ってこの罪を償うんだ、死刑囚としてな」

 捕まって幾日も経たずにそう言われた。裁判に掛けられる事も弁護士を雇うことも無く、とは言ってもそんなもの雇う金なんてありはしないけれど。弁護する暇も無く死刑決定、それだけあの爺は影響力があったらしい。
 別にそれで私は構わなかった。どうせ生きていたって誰かにまた首を絞められる生活。それだったらいっそ絞首刑にでもなってそんな生活に終わりを告げたって構わない。


「出ろ」

 その日、私の牢屋の前に立ったのは死刑執行人ではなく真っ白な白衣を着た数人の男達だった。命令のままに牢屋を出ると視界の隅では、今私の目の前にいる人間の仲間であろう白衣の男と私に死刑を宣告した男が言い合っていた。

「こいつは英雄を殺した絞首刑にして民衆の前で死ぬべきだ!」

「こっちはもう許可がある、悪いが絞首刑は他の死刑囚でやってくれ」

「お前らこそ変な実験なんか他の奴でやればいいだろう!」

 白熱する言い合いを尻目に本当に絞首刑になる予定だったのかと感心していると、別の白衣の男が呆れたように言い合いを一瞥した後、私に声を掛けた。


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