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エス
【純愛 恋愛小説】

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エス-37

「エスの、です」

律子は白い封筒を続けて出しながら言った。

「手紙です。エスから」

封の開けられていない手紙。
加藤は受け取るのを躊躇った。

「遺書じゃないですよ、多分」

律子が身を乗り出して加藤の手に置く。
宛名はお世辞にも上手くない字で『かとうさんへ』と書かれていた。

「エスは……学校にも行かせて貰えなかったようで、それを書くために私に字を習っていました」

律子が立ち上がり鞄を置いたまま歩き出す。

「手を洗いに行って来ます」

気を利かせてくれたのだろう。
加藤は小さく頷くと、律子の背中と手紙を見比べていた。

遺書じゃないと言った律子の言葉は本当だろうか。
未来を見ていないと言ったエスの顔が浮かぶ。


加藤はその白い封筒を見つめたまましばらく動けなかった。
手が震えた。
何が書いてあるのか分からない手紙。
遺書じゃないと言った律子の言葉が信じられなかった。
見てないと言ったあの時のエスの顔が浮かぶ。

必要以上に音を立ててその手紙を開封する。
中には皺々になった紙が四つ折になって入っていた。
意を決して開くと、小学生顔負けの汚い字が並んでいた。

『加藤さんへ

この手紙を読む時あたしはきっと加藤さんの側には居ないと思います。
律子を責めないでください。
律子は最初からあたしに反対していました。
でも、何度も言ったと思うけど、あたしは加藤さんにどうしても会いたかった。

あたしはずっと加藤さんに恋をしていました。

未来を見て、加藤さんという人を知って、その優しさやあたしに未来を求めない姿をずっと求めていました。

よく分からないと言うかもしれませんが、あたしは、加藤さんとどうしても会いたくて、自分が危険に、加藤さんを危険に晒すと分かっていも、加藤さんと一緒に居たかった。

その結果、どうなったのか、あたしは知りません。

あの時を境にあたしは自分の未来を見れなくなりました。
他人の未来は見えるのに、他人の未来にもあたしはいません。

あたしは死ぬのかもしれません。

加藤さんに最後まで好きと言えないのは今分かっています。

こんな風に手紙で書くのは卑怯だと思っています。
でも、あたしの気持ちを受け取ってください。

あの時、良くなったらあたしの我侭でも何でも聞いてやると言っていた言葉、楽しみにしています。

きっと、目が覚めて、あなたに会えますように。

律子にもよろしく伝えてください。
ありがとう、とも。』

書かれたのがボールペンで良かったと思った。
最後まで読み終わる前に涙が紙にいくつも落ちた。


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