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エス
【純愛 恋愛小説】

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エス-3

「ここに『エス』が居るのか?」

加藤はどことなく窓を見上げながら尋ねる。
加藤と少女のわずかな隙間も通行人は無理矢理通って行く。
だが加藤の声は喧騒の中少女に届いたようで、少女は振り返って、頷いた。
おもむろに制服のポケットから鍵を取り出した。
見た限りどこにでもあるい普通の鍵だった。
少女は鍵を見てから加藤を見た。

「ひとつだけ約束してくれませんか」

少女の行動に目を向けていたが少女の言葉に加藤は小さく頷いた。
エスに会えるのならば何でも約束してやろうと、思った。

「エスを・・・・・・守ってくれませんか?」

無表情の少女の顔が一瞬変わった気がした。
とても切ないような表情に。
加藤は表情を曇らせる。

「守る?何から」
「・・・・・・言えません。それは今貴方が知るべき事じゃないと思うので」
「は?ワケが分からんな」
「すいません」

少女は頭を下げる。
そのまま頭を上げないで加藤の返事を待っている。
一分か二分のその間が加藤には耐えられなかった。
何も悪い事をしていない目の前の、むしろ助け舟を出してくれた少女が頭を下げていることに。

「分かった、分かった。俺に出来る範囲で良いんだな? 」

顔を上げた少女は小さな笑みを浮かべていた。
そして鍵を加藤に差し出した。
加藤は手を伸ばしそれを受け取る。
小さな冷たい鍵だった。

「エスはこのビルの5階に居ます」

少女は頭を下げその場から歩き始める。
加藤は歩き始める少女に慌てて声を掛けた。

「おい。お前は一緒に行かないのか」

少女は立ち止まり振り返った。

「エスが会いたいのは、私ではなく、貴方です」

また歩きだした少女の後姿を見ながら加藤は頭をがしがしと掻いた。

この時加藤は分かるはずもなかった。
少女の言葉の意味を。


 ビルのドアはガラスになっており、中を見ると真っ暗だった。
街灯のうっすらとした明かりで見えるのは部屋数分のポストとその少し先に続く階段の最初の2,3段だった。
ポストのいくつかはチラシがぎっしりとねじ込まれていた。
加藤はドアに手をかけ、押した。
重くもなく軽くもないドアはすんなりと加藤を中へ招いた。
とりあえず見える範囲で辺りを見回した。
だが照明のスイッチは見当たらず、顔を曇らせた。

「おいおい、何だよ。エレベーターもなければ電気もつかねーのか」

一人つぶやき、新しい煙草を咥える。
ライターで火をつけようとし、一瞬考える。
煙探知機が作動しや、しないかと。
けれど、こんなエレベーターもついてないビルに、そんな大層な物が付いてるとは思えず苦笑いを浮かべて火をつけた。
加藤の思惑通り、スプリンクラーが回るわけでも、ベルが鳴るわけでもなかった。


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