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loop
【幼馴染 官能小説】

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loopU-1

昔、母親から貰ったオルゴールをとても大切にしていて、周りからは男の子のくせにオルゴールなんておかしいわね、と言われながらも、それは僕の覚えている初めてのプレゼントでとても特別で、そして後からそれは最後にもなったプレゼントで、本当に大切にしていた。

そのオルゴールの音を聞く時は特別な時と決めていて、例えば病気がちな母親が入院した時とか、あまり好きじゃない父親が家の中で怒鳴っている時とか、普段から辛抱強い僕が、どうしようもなく我慢できない時に聞くようにしていた。

今思えば、その音色が幼い僕の精神安定剤のようなものだったと思うけれど、極力そのねじ巻き式のオルゴールを回すのはやめておこうと幼い僕は小さな心に誓った。
きっと、ねじを回し過ぎるとオルゴールが壊れてしまうと思ったからだろう。
――それほど大切にしていたオルゴールだった。

けれど、大切にしているものほど壊れやすいものだと知ったのは、僕もある程度成長して高校生になる手前の秋、病弱だった母親が亡くなった時だ。

15歳、周りからはしっかりしているね、しっかりしないといけないものね、と言われ続けてきた僕でも母親の死は大きな衝撃だった。
半ば無意識にあのオルゴールを引き出しの奥から久しぶりに出してねじを巻こうとした時、大切にしていたそれはピクリとも動かなかった。

初めはなぜかわからなかったけれど、単純な事に、長年しまい込んでいたオルゴールは錆びて古くなり、動かなくなってしまっただけだった。

動かなくなってしまったオルゴールに、初めて僕は涙を流した。
それは色んな事が重なって、僕の頭の中でぐるぐると回り、葬式の間も、その前の病院でも一度も泣かなかった僕は、暗い部屋で一人、壊れたオルゴールを手に泣いた。

あんなに大切にしていたのに。壊すまいと大切にしていたのに。
わがままを言わずに、母親には負担をかけまいと、そうすればいつかと願っていたのに。

今までこれほどに自分が我慢をしていたのかと、自分でも驚くほどに溢れた感情が涙となってこぼれだしてきた。

大切にしようとすればする程、僕の手には結局何も残っていなかった。

大切にするにはどうすればいいのか、何かを大切にする事が僕にできるのか、そもそも大切にするとはどういう事なのか、何もかもが僕の中でわからなくなってしまった。


あれからもうだいぶ経ち、今思うと、部屋の片隅でオルゴールを聞いていた自分は暗い子供だったなと苦笑してしまう。
母親のいない事にも慣れて、僕はあの頃に比べてだいぶ大人になったけれど、あの頃から僕の中で何かが少しずれてしまった気がする。
けれど今の自分ではそれが何かわからないし、あの時の答えも―…まだ出ていない。


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