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記憶の片隅に
【純愛 恋愛小説】

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記憶の片隅に-2

目が覚めるとベッドの上だった。保健室らしい。ゆっくり起き上がると、叶実の声がした。
「あ、気付いた?」
その横には畑野くん。あたしと一緒に倒れ込んだ人だ。
「叶実〜…」
あたしはあったことを話す。二人は最後までしっかり聞いてくれた。
「そっか…でもさ、狐さん、忘れたのかって言ったんでしょう?」
聞き終えてから叶実が言う。
「やっぱり早弥、何か忘れてるんだよ」
そうなんだろうな…。でも思い出せない…。
さぁっと風が舞い込む。さっきの天気が信じられないくらい、空は晴れている。風のせいでカーテンがはためき、外が見えた。
…?誰か立ってる…。スローモーションのように、ゆっくりカーテンがめくれ、現れたのは……白風くん…?どうして…。瞳が合う。冷たい視線。それが先程の狐のものと重なる。…まさか…。
カーテンが再び降りてくる。彼の全身を包んでからサッとめくれあがった時、彼はもう居なかった。
あの人だ…。あたしは本能的に悟った。あの人、狐だ…。
「早弥?どうしたの?」
叶実の声。あたしは笑って首を振る。
「ううん、別に」
みんなを巻き込む訳にいかない。あたしが解決しなくちゃ…!

叶実の心配を振り切り、あたしは一人で家路につく。数十?先には白風くん。まず彼が狐かどうかを確かめなくちゃと思い、尾行することにしたのだ。
彼は寄り道することもなく、真っ直ぐとどこかへ向かう。やっぱりおかしいよ。
転校生なのに、帰り道に躊躇しない…。
彼はしばらく住宅街を歩くとある場所で右に曲がった。あっちは山の方だ。あたしは小走りでついていく。住宅街を抜けてしまった。民家が減ってくる。

すい、と彼が曲がる。
あそこは神社だ。夏祭りや初詣でで賑わう稲荷神社。この先は暫く石段が続くので、彼が登りきるまで待たなくてはならない。あたしは鳥居の陰からそっと石段を覗いた。…あれっ!?
あたしは思わず陰から飛び出す。うそ、どうしていないの?今石段に入ったはずなのに!
あたしは慌てて石段を駆け上がる。逃がすものですか!

息を切らしながら境内にたどり着く。でも彼の姿はない。あたしは辺りを見渡すが、彼らしき人物は見つからない。
諦めるもんか!
社の裏手に回ろうとした時だった。
「尾行とは趣味が悪いな」
背後から声が飛んだ。振り返るが誰も居ない。
「上だよ、上」
くすくすと笑いながら声が告げる。言われた通り、上方を見た。
…ん?
一際高い杉の木のてっぺん近くに黒い影。それがふわっと宙を舞う…。
―トッッ―
軽い音と共に、制服を着た少年が目の前に現れた。確認するまでもなく、白風くんだった。
「で、僕に何の用だい?高崎早弥さん」
どうして今日転校してきたばかりなのに名前知ってるの…?
あたしはギュッと眉を強張らせ言った。
「あなた狐ね?あたしに呼びかけたりするのもあなたでしょう?」
さっと彼の瞳が優しくなる。…え?
「思い出したのか!?早弥」
あたしは困惑する。何?あたしこの人に会ったことがあるの?
「思い出すって、何を…?」
あたしの質問に白風くんはまた冷たい瞳をした。
「ねぇ、何なの?どうしてあたしに構うの?あたし何かしたの?ねえっ!」
強い風が吹いてきて、落ち葉が流れた。彼はその一枚を取り、手首だけで指揮者の用に振った。
何の前触れもなく、それは鞠に変わった。
彼はあたしに近付き、それを手渡した。

…すごい…本物の鞠だ…。

感心し、鞠を見つめるあたしに影が落ちる。反射的に顔を上げたあたしに落ちてきたのは…キス…だった。あまりにも突然で抵抗の仕様がなかった。
彼が唇を離しても、あたしはただ呆然と彼を見つめるだけ。すぐ傍に顔がある。息がかかるくらい傍に。

彼の冷たげな瞳が、一瞬、淋しく微笑んだ…と思った途端、突風が起こり、あたしは思わず瞼を閉じた。
風の中に凛と響く白風くんの声。
「早く思い出して…早弥…」
待って…待って!何のことなの?何を忘れているの?お願い、行かないで…!

風が止み、目を開けたあたしの前には、案の定彼の姿はなかった。


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