投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Not melody from you
【その他 恋愛小説】

Not melody from youの最初へ Not melody from you 9 Not melody from you 11 Not melody from youの最後へ

Not melody from you
:Side-heavy
-3

彼女はぼくの横で仰向けの状態で目をつぶっている。
眠ってはいない。母親が死んでから彼女が殆ど眠る事ができていないのを、ぼくは知っている。
その手を握ったままぼくは考えた。
もし別の誰かなら他に何かができたのだろうか。
彼女の隣に眠るのがぼくではない別の誰かなら、彼女を一瞬で立ち直らせるような、絶大な効力を持つ言葉を言えただろうか。
一時だけでも母親の死を彼女の頭から離せるような、そんな行いができただろうか。
別の誰かなら、彼女を救えただろうか。
あまりに無意味な思考にぼくは考える事を辞めた。
どれもできそうになかった。
ぼくはそんな事ができる風に生きてこなかったし、そんな事ができる風に造られてこなかった。
できたのは彼女の母親の死と彼女の悲しみをそうある事として受け止めてただ彼女の傍に居る。
それだけだった。
考えても考えても他の答えは出なかった、彼女と母親との絆は強かったし、それ故の彼女の悲しみはあまりに大き過ぎた、そしてその全てにぼくは負けたのだ。
虚無感と情けなさと悲しみと愛しさが交錯し、それらは強い感情となってぼくを襲った。
握っていた手を離す。
1ヶ月間振りほどいても振りほどいても握られ続けた自分の手が急に自由になった事に疑問を感じたのか、彼女はぼくに問いかけるような目を向けた。
その目はやはり虚ろだった、虚ろの奥に、はっきりとした死が映っていた。
可哀想で、でもそれ故に愛しくて、その目に耐えられなくなったぼくは彼女を抱きしめた。
三カ月間繋いだ手だけが超えていたベッドの中央線という壁を、ぼくは今はっきりと壊した。
抱きしめた瞬間、彼女は腕の中で身を強ばらせた。
「止めてよ…」
彼女がか細い声で呟いた。
ぼくはそれでも彼女を離さなかった。
「止めて!」
ぼくの胸を両手で押して、彼女は必死にぼくを引き剥がそうとした。
弱い力だった、それが棒のようになった彼女の精一杯の力だった。
その力の全てでぼくを拒絶していた。
それでも、その拒絶をぼくが受け入れる事はなかった。
彼女を抱きしめた瞬間、遠い遠い何処かにある今の彼女に必要なモノの一端を、ぼくの腕の中に垣間見た気がした。
それはとんでもない勘違いなのかもしれない。
だが今のぼくにはそれにすがる以外の方法が、どうしても考えつかなかった。
「止めて!止めてよ!」
彼女は暴れた。
何度もぼくの胸を殴り、顔をはたき、引っ掻いた。
はたかれた場所はヒリヒリとし、引っ掻かれた場所からは血が出たが、ぼくはそれに抵抗しなかった。
その痛みはきっと、彼女の痛みの何百分の一でしかなかった。
彼女がぼくを傷つける度に、ぼくは抱き締める力を強めた。
そうする事で彼女を包む暗闇が、ほんの少しだけ薄くなってくれるような気がした。
どれ位そうしていただろうか。
疲れたのか、諦めたのか、彼女の暴れる力は徐々に弱まっていった。
それでもぼくは彼女を離さなかった。
それはもしかしたら、まるで呪いのようにも見えたかもしれない。
「ぅぅ、ぅぅ、ぅぅぅぅ」
やがて彼女はぼくの肩に顔をうずめて泣き始めた。
ちっぽけで、弱々しくて、しかしそれはこの暗い部屋に深く深く染み渡った。
泣き続ける彼女を、ぼくは更に力を込めて抱きしめた。
お願いだ、吐き出してくれ。
たとえその悲しみが君が生きている間永遠に生まれ続けても、ぼくはそれを受け止め続ける。
君が死にたがる度に、ぼくはそれを全力で止め続ける。
君がぼくを突き放そうとする度に、それより強い力で抱きしめ続けてやる。
君にとって、それはただのぼくのエゴなのかもしれない。
もしかしたら一種の呪いのようにも思えるかもしれない。
だけど…だけど、ぼくは君が好きなんだよ。
だから本当にこればかりはどうしたってしょうがない事なんだ。


Not melody from youの最初へ Not melody from you 9 Not melody from you 11 Not melody from youの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前