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Poor Crown〜Beside the Bridge〜
【自伝 その他小説】

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Poor Crown〜Beside the Bridge〜-6

6/15(日)
あいにくと、月は出ていなかった。
俺は、渡月橋のほとりに一人腰を下ろして煙草をふかしていた。もう六月も半ばを過ぎたというのに、桂川のほとりを漂う空気は、長袖の上からも肌をなでていく。
ぶるっ、と一つ身震いをして、ようやく見つけた暖かい缶コーヒーを開けた。
ぷしゅ。
小気味のいい音を立てて口を開けた缶からはゆったりと湯気が立ち上っていた。くぃ、と甘いコーヒーを煽ると、体の中心が暖かくなったようで少し安心する。
久しぶりだと思う。以前に来たのは、確か三月か四月。一人で来たとなれば、それこそ年を遡ることになる。俺にしてみればなかなか長いスパンで来ていなかったことになる。就職活動を始めとした諸々の事情がそれを許さなかったのだ。今も、落ち着いていると言えるかは微妙ではあるが、ここに来るだけの余裕は出来たのだろう。我思う、故に我有り。
…ちょっと違うか。
何にせよ、こうして一人でのんびりとうつろいゆく光の道を眺めるのは本当に久しぶりのことだ。家に帰ってやるべきことのことはこの際脇に置いておこう。
時刻は今日を三十分ほど残したところだが、未だに橋の上をヘッドライトが行き来している。タクシーだったり、自家用車だったり、トラックだったり。仕事帰りだろうか。そう考えると必然的に一年後の自分の姿を想像してしまい、気が萎えていく。
俺の他にいる何組かのグループ――死語を敢えて使おう、アベックという奴だ――は、学生だろうか。若い男女は寄り添いながら思い思いの会話を交している。…勿論、俺に盗み聞きの趣味はない。興味はあるけど。
きっと、来年の俺は、彼らのように大切な人と過ごす時間はそう多くもうけられないだろう。だから彼らに言いたい。後悔するなよ、と。
そう心の中で呟いた途端、羞恥心が俺の頭頂へと駆け上った。カッコつけずに言えば、すんごく恥ずかしくなった。誰にも聞かれてはいないはずではあるのに、めちゃくちゃ照れ臭い。
――さて、と。
俺は自分に言い聞かせるように口に出した。傍らに置いてあった鞄を担ぎ上げ、俺は勢いをつけて立ち上がった。そろそろ、日付が変わる。


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