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Poor Crown〜Beside the Bridge〜
【自伝 その他小説】

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Poor Crown〜Beside the Bridge〜-1

5/23(金)
俺は、淀屋橋の下を流れる土佐堀川のほとりで煙草をくゆらせていた。何となく、やり場のない寂しさとか、切なさとか、そんなものを持て余しながら。
ぷはっ。
喉の奥とも頭の頂点とも言えない部分がずん、と重くなる感覚。くらりとした刺激が俺に安堵をもたらす。我ながら不健康な娯楽だ。
俺、ニートになるよ、おかん。
そんなことを言ったら、実家の母は何と言うだろう。
あんた、兄弟の中で一番金使わせといて今更何言っとんがいね。ダラなこと言っとらんとさっさと就職先決めて安心させてくだい。
ふむ。
地元の人間でないと判断しにくい字面だ。
まだ黄昏時にすら早いと言うのに、目の前のベンチに座っているカップルの影が今にも重なりそうだ。
「落ち着いて見えるけどねぇ」
緊張している、と告げた俺に、面接官の二人は口を揃えた。質問に対して沈黙で返した馬鹿な学生に掛ける言葉としては些か不適切であると言わざるを得ない。…もっとも、面接官は彼らであって、俺ではないことも、疑いの余地はないことだったが。
団塊の世代が定年退職する稀代の売り手市場。鵜呑みにはしていなかったが、自分がここまで苦戦するとは思っていなかったのも事実。偉そうなことをほざいていた自分にメールしてあげたい。件名は『図に乗ってんちゃうぞ』、でどうだろう。
やれやれ。
自分のめでたい妄想に左目をしかめ、JPSのボックスから新たな一本を取り出した。ソフトを買えなかったことを少しだけ残念に思う。カチ、という軽い音を立て、水色の百円ライターが火を吹き、先端が赤く染まった瞬間、ふっと一口目を吐き出す。立ち上った煙は冷え始めた風に運ばれ、やがて見えなくなった。その行方を目で追っていた俺は、紫煙が薄闇色に溶けたのを見届け、川の方向へ視線を戻した。
太陽がビルの海に飲み込まれていくにつれ、川辺のオフィスの窓から漏れる黄色い灯りが存在感を増してくる。
光は、優しい。
優し過ぎて、色々なものを惹き付ける。例えば、俺とか。
気がつくと、街路樹の間な設置された街灯も、仕事を始めた。
土佐堀川の水面は黄色やオレンジに染められ、漣がそれを揺らしている。注意していなければ吸い込まれそうだ、と言えば気障な表現ではあるが、そこに身を任せるのも悪くない、とも思うのは何故だろうか。
街灯がついたとはいえ、太陽がその姿を完全に隠したため、視界は夜のそれへと完全に移行していた。カップルの姿も、最早視認は難しい。
さて。
俺は両足をばん、と大袈裟に鳴らして立ち上がり、ズボンの埃をぱんぱん、と払った。
帰宅ラッシュに巻き込まれるのは本意ではないが、そろそろ帰るとするか。


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